飼育日誌
カニ日和④
皆さまこんにちは。
久々の「カニ日和」です。
秋の特別企画展が無事オープンし、好評を頂けていて一安心、というところで、久々にカニと戯れ、英気を養うことにしました。
とは言え、せっかくなら展示に役立てたい!と思ってしまうのが、飼育員のサガです。
つい先日更新しました「小川の実験観察テーブル」。
見た目が良く似た2種類のカニが再登場です。
秋から冬にかけての展示ということで、紅葉、落ち葉の似合うカニにしようと思い、科学館らしく最新の情報もお知らせ出来たら良いなと思いながら作りました。
1種類目はこちら。
私の「推しガニランキング」で、常に5位以内に入っているかわいいヤツです。
思い返せば、私が当館で働くようになって最初に書いた日誌も、このカニについてでした。
飼育日誌2022.04.17 小さな赤いカニ
最大でも1.5cmほどの小さなカニで、ぷっくりと丸みのある甲らに小さな目が特徴です。色はオレンジ色から乳白色まで様々です。
イソガニの仲間らしく本来は海で見られ、ごろごろと石が転がっている環境に多いのですが、波打ち際よりもちょっと内陸側の「大波が来た時に水をかぶるかな」くらいの位置を好みます。
さらに、内陸から淡水の染み出しがじんわりと流れ込むようなところも好みます。川の河口で見られることもあり、低塩分に適応したカニであることが分かります。
相模川の河口でも2022年に見つけていまして、他の記録種とまとめて論文にしたところです。
調査・研究2024.06.09 相模川河口域におけるカニ類8種の生息記録が論文掲載
さて、2種類目はこちら。
ヒメアカイソガニより2まわりほど大きくなりますが、姿かたちは似ています。
色にバリエーションがある点も似ています。
当館のある水郷田名エリアのサワガニは、北の方に茶色いタイプが、南の方に青白いタイプがすんでいます。今回訪れた場所には青白いタイプがいました。神々しくてかっこいいです。
ところで最近の研究によると、この青白いタイプが海沿いに分布すること、2週間くらいまでなら海水中でも生き延びるものがいることから、どうやら海を渡って分布を拡大してきたらしいことが示されていました。サワガニが海を渡る!?
とても驚くとともに、腑に落ちたところもあります。
ここからは私の妄想ですが、大きな流木などに潜んだ状態で海まで流されて、漂流したのかも知れません。常に海水がしみ込んでくる流木のすき間なら、高温にもなりにくいですし、木の表面に生える藻類などを食べながら、たまに雨水を補給できれば、案外快適な海の旅だった可能性もあります。
さて、こちらがサワガニがいた沢の写真です。どこぞの山かと思いきや、なんと海の波打ち際から十数mしか離れていません。
後ろを振り返れば海なのです。
この沢そのものは冷たい淡水で、サワガニがすんでいます。
それが海に注ぎ込むところが塩水と混ざり合う転石地帯になっており、ヒメアカイソガニやイソガニがすんでいます。
サワガニとイソガニの仲間がこんなに近くにすんでいる場所は、なかなか珍しいのではないでしょうか。
場所はヒミツとしておきます。
ということで、かわいいカニたちを次々と手に取りながら、展示づくりの参考にもなり、充実した1日となったのでした。
展示では、物陰に隠れてしまっている時もありますが(特にヒメアカイソガニ)、それを探すのも込みで、是非当館の「紅葉が似合うカニたち」に会いに来てください。
伊藤