飼育日誌

2024.02.09

貝の赤ちゃん⑦

皆さまこんにちは。
だいぶ間が空いてしまいました。
ただでさえカタい本連載。
前回前々回の話題は特にガチガチでしたね。でもどうかお許し下さい。

大げさでなく、私の生涯にわたる研究の中で、おそらく一番大きな成果となりそうだったので、熱が入ってしまいました。
今回からは、もとの路線に戻します。

これまで「イシガイ類の赤ちゃんは魚の寄生虫」だと、たびたびお伝えしてきました。
貝の種類ごとに寄生できる相手がある程度決まっていて、そのへんを明らかにすることで「どんな魚と貝が一緒にいると都合がよいのか」判断ができます。
それを研究するのが私のライフワークです。
普遍性の高い情報として後世に受け渡せることに意義を感じつつ、結果として展示飼育にも役立てられるというわけです。

ここで疑問がひとつ。
そんなに狙いすまして、貝の赤ちゃんを手に入れて魚に寄生させることができるの?

です。実はこれが、結構なハードルです。
このあたりは論文に書くことのない裏話になりますので、特別にここで語ってみます。

まずは、“寄生する元気のある”赤ちゃんを手に入れなくてはなりません。
そのためには、赤ちゃんをもっている親貝を入手しなくてはなりません。
貝の繁殖期や成熟サイズの知識だけでなく、正直、運も必要です。
さらに、運よく親貝が赤ちゃんを放出してくれたとして、赤ちゃんが魚に寄生しようと頑張れるのは長くて2日間、通常1日以内と、超短いのです。

これらをクリアするために、特別な工夫を凝らしています。
ずばり「採れたて水なし運搬」です。

実際にこの年末、この方法で生きた親貝を搬入し、幼生の入手にも成功しました。
今回の主目的は貝の長期飼育試験とタナゴの産卵用だったのですが、ついでに、貝が赤ちゃんをもっているならば、当館に着いてから放出させたいな~と目論んでいました。
そこで知り合いに、「“ドブガイ”を採りたてですぐに送ってもらえませんか」とお願いしました。

まず“ドブガイ”をチョイスしたところ。
秋~冬に繁殖する種類が多いので、赤ちゃんを持っている可能性があります。
(ここ数年で“ドブガイ”は細かく種類が分かれましたが、ここでは詳しく触れません)

次に「採りたて」というのがキモです。
イシガイ類は刺激を受けると、卵や赤ちゃんをバーッと放出してしまうのです。
なぜそうするのか、本当の理由はまだ分かりません。
貝がすむ氾濫原やワンド、田んぼの周辺は、水深や水温の変化が大きい水域です。
水域が変化する時、貝の赤ちゃんを運ぶ魚(宿主)の移動も活発になるので、そのタイミングで赤ちゃんを放出することで魚に寄生して運んでもらえる確率が高まる、とかあるかな~、と妄想しています。ただショックで吐いているだけかも知れませんが…。

とにかく、採った貝をバケツで数日間キープしたりすると、そこで幼生を放出しきってしまうケースが多いのです。


届いた“ドブガイ”

届いた貝はぬれた新聞紙にくるまれていました。さすが分かっていらっしゃる!
おそらく採集されてから一度も水に浸されておらず、2日間の輸送で渇水と同じ刺激を受けているはずです。
1個ずつ、新鮮な水を入れたケースに入れて様子をみます。
その数日後、ケースの中に、ほぐしたタラコのようなものが!
急いで顕微鏡で確認すると…。


“ドブガイ”の赤ちゃん

ビンゴ!まぎれもなく貝の赤ちゃんです。
大きさ、形も申し分なしです。
しばらく見ていると、パクッ、パクと殻を素早く開け閉めしています。
確かに生きています。急いで魚の準備です。

こんなこともあろうかと、あらかじめ宿主候補となりそうな魚をバックヤードでキープしていました。
貝の赤ちゃんと一緒の容器に入れて、エアレーションと手でゆっくりと水をかき混ぜます。
赤ちゃんは触れたものを反射的に殻でクリップして寄生します。
かき混ぜてあげることで、魚との接触を促しているのです。

さきほど書いた通り、貝の赤ちゃんが元気でいられる時間はごく短いです。
赤ちゃんが放出されてから、どのくらい経ったのかは分かりません。もし、昨日の閉館直後に放出されていたのなら、まる1日経って、弱り始めているかもしれません。
ここは祈るしかありません。
赤ちゃんたち、頑張って魚に寄生してくれ…!

毎回、貝の寄生研究をするときは、こんな感じで祈っています。
さて、今回はどうだったのでしょう。続きは次回に致します。

ところで、この「採れたて水なし運搬」が有効と気づいたのは、今から10年ほど前。
某大学のK先生と一緒に貝の研究をした時です。
K先生は、大量の貝を測定するのに研究室の学生さんの手を借りるべく、現地から大学へ貝を輸送していました。その時、水なしで梱包していて驚いたものです。
「自然でも数日くらいは干上がることはあるし、大丈夫ですよ」という感じのことをおっしゃっていたと記憶します。
確かに、輸送から測定に至るまで貝は水から出されたままで、問題なく生きていました。
ここで図々しさを発動して「測定後の貝を数日間お借りしたいのですが」と申し出ました。数日間の水なし刺激を受けた貝を水に入れてみたところ、幼生を放出した、というわけです。
この時の経験がなかったら、貝を水なしで生かしておく、という発想自体がなかったと思います。
K先生をはじめとする研究仲間のおかげで、自分の研究をすすめることが出来ていることに改めて感謝です。

伊藤


2024年5月
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