飼育日誌

2023.07.30

貝の赤ちゃん⑤

皆さまこんにちは。
飼育日誌の中でもマニアックな「貝の赤ちゃん」シリーズ。
中でも今回は過去一番のマニアックさですが、是非ついてきてください!

今年の6月に、ある研究成果を論文として公開できました。
私のささやかな研究活動の中で、集大成の一つと言えるものです。
とりまとめるにあたり、多くの仲間に支えて頂きました。心からお礼を申し上げます。

18ページからなるその内容をあえて一言で言いますと、
「イシガイ類が今まで知られていなかったルートを通って分布拡大する可能性がある」
というものです。
今まで知られていなかったルートとは、ズバリ「塩水の中」です。
飼育実験とフィールド調査で得た状況証拠で、その説の補強を試みています。


ミニ企画展示

7月11日からの「ミニ企画展示」で、この内容についての展示をはじめました。
皆さまにはこちらで研究に関係のある生き物を見て頂きながら、内容の一部だけでも伝わるように努めました。
難しく考えずに、楽しくながめて頂くだけでもうれしいです。

でも…欲を言えば、大人の方には誤解なく内容を知って頂きたい気持ちです。
本研究に興味を持って頂いた方は是非「調査・研究」もご覧頂けたらと思います。
そしてもし、さらに深く知りたいと思って頂けたら、論文そのものを読んで頂けたら嬉しいです(インターネット上で読むことが出来ます)。

さて、ここからは「どうしてこんな研究をすることになったのか」をメインに語ってみます。
論文の中には書けない空想も含まれますので、フワッとした思い出話とお考え下さい。

10年ほど前のことです。
西日本のある水域で「イシガイ類が大量に死んでいるらしい」と、現地にいる知り合いから連絡をもらいました。
その池は海から近い場所にあり、「海の水が逆流したことと関係あるのでは?」と有識者の間で言われていました。


西日本の某生息地

私も「それだろうな」とは思いながらも、イシガイ類と塩水の濃さ(塩分)の関係についてのデータを探してみたのですが、当時はそれを見つけることができず、少なくとも国内では研究されていなそうだと思いました。
教えを乞うべく、同分野で大先輩にあたるK先生に相談してみたところ、卒業論文で少しだけ調べたとのこと。そのデータまで見せてもらうことができたのです。
そして「続きを調べてみては」と背中を押して頂いたのです。
これが、私がイシガイ類と塩水の関係を調べてみようと思った動機です。

そうです。
この時は単に「イシガイ類の成貝がどのくらいの濃さの塩水に耐えられるのか」を調べようとしただけだったのです。
調べた結果は私にとって予想外のものでした。
イシガイ類は、海水どころか、「海水を1/5にうすめた塩水」でも、数日で弱ってしまったのです。
この塩水は、コイやモツゴといった多くの淡水魚が健康に生きることができるほどにうすく、イシガイ類が魚よりはるかに塩水に敏感だと分かったのです。


当時実験に使った成貝たち
上からイケチョウガイ、ヨコハマシジラガイ、ドブガイ類、ドブガイモドキ、カラスガイ

一方でその頃の私は、貝の幼生について調べることをライフワークにしていました。
成貝の塩分耐性を調べながら、ふと「幼生はどうなのかな?」と思い立ちました。
生きた幼生を得た時に、その一部を塩水にさらしてみました。
すると、それまで殻をパクパクと動かしていた幼生たちが、みんな殻を閉じてこもってしまいました。塩水を嫌がっているのは明らかでした。
貝の幼生は、淡水中であっても、親貝から放出されて1~2日の間に魚に寄生できないと弱ってしまいます。
ただでさえ短命なのに、塩分を感じて殻に閉じこもってしまっては、魚に寄生するチャンスもなくなり「ジリ貧」です。

「じゃあ、幼生が魚に寄生した後で、その魚が塩水の中で過ごしたらどうなっちゃうのか?」
気になりました。
思い立ったらやってみる、です。
濃い塩水の中でも元気に過ごせるメダカとゴクラクハゼに幼生を寄生させて、塩水で飼ってみたのです。
何日かして「そろそろ幼生が稚貝に変態して魚から離れるかな」というタイミングで魚を淡水に戻しておいたところ、生きた稚貝が元気に離脱してきたのです。
これにはかなり驚きました。
「イシガイ類は塩水に弱いけれど、“魚に寄生した幼生”の時だけは、塩水に耐えられる」ことが分かったのです。

当時はトリッキーともとられる内容でした。
学会で発表した時にも「変わったことなさるわ~」という反応があったのを覚えています。
異端だったわけです。
多少は自覚していた私も、ちょっとショックを受けたのでした。
とはいえこの成果は、2016年に論文として公開することが叶いました。
当時、この内容の意義を認めて下さった共著者と論文編集の担当者には本当に感謝です。
読者からの反響もちょっとだけですが、ありました。
それをモチベーションに、体が動くうちにもうちょっと研究を進められないかな、と思いました。

…だいぶ話が長くなってしまいました。
まだ今回の成果の話に入っていませんが、続きは次回に致します。

伊藤


2024年7月
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