飼育日誌

2023.07.10

カニ日和③

皆さまこんにちは。

約1年ぶりの「カニ日和」です。

今年も、夏の特別企画展オープンの開放感とともに、某河口干潟を訪れました。
場所も、メンツも昨年と同じ。
最近は、深海のカニ漁にもバリバリ参加している“えのすいのカニ担当”、大下さんと一緒です。
もちろん、仕事ですよ!

まずは昨年のおさらいということで、このフィールドお馴染みの面々を再紹介します。

「川の多様な生き物水槽」レギュラー。
もう覚えましたね?「フタバカクガニ」
ごつくて速い!しびれるカッコよさです。


同じく「カクベンケイガニ」
フィールドでもフタバカクガニと一緒にいます。
干潟カニ界の名バイプレイヤーです。


白いハサミが神々しい「アシハラガニ」
相模川では少ないですが、ここでは大群をなしています。
現在展示は行っていません。


子持ち!クシテガニ(オオユビアカベンケイガニ)
身重でも相変わらずの超スピード!
当館ではまだ展示したことがありません。
近いうちに狙いたく思います。

さて、今回はこれまでにあまり紹介できていない干潟の主役級2種について語ってみます。
現場に着いてすぐの岸壁下を見てみますと‥‥


ヤマトオサガニの巣穴

ヤマトオサガニです。
潮が引いて、干上がったばかりの川底で、もう活動を始めていました。


泥の表面にあるツブツブは、彼らの足跡です。
人が歩けばズブズブと沈み込んでしまうシェークのような泥の上も、チョンチョコ器用に歩きます。


ヤマトオサガニ

長い眼と、工具のようなハサミの形が、ほんと面白いです。


チゴガニ

続いてチゴガニです。
ものすごい数です。巣穴を踏まずに歩くのが難しいほどで、川岸に1分間も座り込めば、巣穴から出てきて踊りまくる彼らに囲まれてしまうほどです。


一心不乱にチゴガニを採集する大下さん


座り込んだまわりを掘るだけでこのとおり

前回同様、展示に必要な分だけ、持ち帰ります。
展示場所は「えのすい」ですのでお間違いなく。
ご覧になりたい方は「えのすい」へ是非どうぞ。

いつかは当館でも常設展示したいものです。
実は「相模のカニ展」前後にこれら干潟棲カニ類の飼育をあれこれ試しておりました。
工作上手の竹本飼育員による「手作り干満装置」もあります。
「えのすい」ほどの設備がなくともいける!という実感があります。
ご要望がふえてくるようでしたら、当館でも展示を考えたいと思っております。

一方で、残念なことですが、両種とも相模川では1980年代を最後に姿を消しています。
ヤマトオサガニはベチャベチャとしたやわらかい泥のところを、チゴガニはホクホクとした土っぽいところを、それぞれ好むとされていて、相模川にそうした環境がなくなってしまったためにすめなくなった、というのが一般的な見解です。

私もそう思っている一方で、今回訪れた干潟では、両種ともにかなり砂っぽいところや、ザクザクとした砂利交じりのところにもたくさんいて、両種に対する印象が変わります。
言ってみれば、そうした環境ならば今の相模川にもあるわけです。両種が必ずしも底質だけで住処を選んでいないことが実感できます。幼生の接岸を助ける水流か、はたまた着底に適した微妙な環境の有無か。調べる余地がありそうです。


小さな漁港なのに…


無数のカニが!

そうした妄想を裏付ける例をもう一つ。
帰りがてら自販機でジュースを買うために立ち寄った小さな港。
ふと港のわきを見ると、チゴガニが無数にすんでいます。
この港は河口に面しているわけでもなく、護岸に囲まれ、ゴミだって落ちています。
カニのために環境を保全している気配はありません。
人が開発をすすめると生き物がすめなくなる、とシンプルに考えがちですが、こと干潟棲のカニについては、そう単純な話ではなさそうです。
言い換えれば、開発のすすんだ都会でも、人と生き物は共存しうるのです。そのポイントが何なのか、答えが出せれば望ましいです。
この港を見て、こうした考えを頭によぎらせることが出来たのが、今回一番の収穫でした。

伊藤


2024年11月
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