飼育日誌

2023.06.23

貝の赤ちゃん④

皆さまこんにちは。
不定期連載、久々の再開です。

つい数日前に、貝の赤ちゃんに関する新しい論文が公開されました。
懇意の大学の先生方とすすめている「イシガイ類の赤ちゃんを育てる試み」の中で見つけた「新しい宿主」についてです(宿主については過去の日誌を読み返して下さいませ)。
今回はそれについて、くだけたかたちで、妄想も織り交ぜて書いていきます。
より正確に詳しく知りたい方は、調査・研究へどうぞ。


イシガイ(西日本産イシガイ属)

対象とした貝は「イシガイ」です。
その名が示す通り、イシガイ類を代表する小型種です。分類上のトピックとして、最近「2種類に分けなおされた」ばかりの種でもあります。もともとは日本にいるほとんどの「イシガイっぽい貝」がイシガイ、琵琶湖のものだけがタテボシガイだったのです。今は西日本産がイシガイ、東日本産がタテボシガイです。頭がこんがらがりそうですね?私も分類学についてはあまり詳しくないのですが、タテボシガイという地域固有の伝統あふれる呼び名を、東日本のものにあてて残した命名者(良く知る大先輩です)の感覚が、とても好きです。相模川にいる「イシガイっぽい貝」はタテボシガイと呼べるのです。

さておき、今回イシガイの赤ちゃんの宿主として明らかになったのは、ウキゴリとグッピーです。


ウキゴリ

ウキゴリはハゼの一種で、相模川にも見られます。水郷田名のまわりには、川岸や中州に水たまり(池やワンド)があり、ごく限られた範囲にドブガイの仲間がすんでいます。そこでは、ウキゴリとヌマチチブが宿主として機能していて、それも2008年に論文にしています。今回、飼育下限定ではありますが、イシガイの赤ちゃんもウキゴリを利用できることが分かりました。

写真③

グッピー

次にグッピー、有名な熱帯魚です。日本では冬でも水温があまり下がらないところ、例えば沖縄の川や、温泉や下水の水がまざる水路でふえていたりします。グッピーと日本の貝の幼生の相性を調べるなんて突飛過ぎると思われるかも知れませんね。実は10年ほど前に、石垣島でドブガイモドキという貝の宿主を調べたら、グッピーがいちばん利用されていてビックリしたことがあるのです。おそらく今でも、国内の自然下イシガイ類による国外移入種の宿主利用例として唯一のものではないかと思います。この時の経験から、グッピーは他のイシガイ類にとっても相性の良い魚なのかも?と思っており、今回試してみたらビンゴだったわけです。

どちらの魚も現在展示しておりませんが、ゆくゆく機会を作ってお披露目したいと思っております。どうか気長にお待ち下さい。

貝の宿主を研究するうえでは「自然下でどの魚が、どのくらい利用されているのか」を明らかにすることがベターであると分かってはいます。でも、限りある人生の時間の中で、知りたいこと全てを、タイミングよくドンと明らかに出来るチャンスが作れるとは限りません。そのチャンスを気長に待ったり、ある程度データがそろってからまとめるのも手ではありますが、少なくとも今の私は「報告できるときにしておく」よう努めています。調べられなかった部分については、論文を読んだ読者の誰かが「やったる!」と奮起して下さるか、自分たちで「もう少し、もう少し…」とデータを積み重ねて後出しすることでよいと思うのです。これまでに「大風呂敷を広げて、そのまま…」という例をちょこちょこ見てきたというのも、あります。小さくても新しい知見を世に送り出すことを恥ずかしがらずにコツコツと、をモットーに、これからもマイペースで楽しんで研究したいと思っています。

伊藤


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