飼育日誌
相模のカニ展⑨ フタバカクガニ
皆さまこんにちは。
特別企画展「相模のカニ展」もあとわずか。
こちらのシリーズ日誌も今回で最終回です。
以前の日誌で「いつか当館で展示したい」と書きましたが、ようやく実現しました。
前の職場でも、たびたび展示してきた大好きなカニです。
おそらく、日本で一番このカニを展示しているのは私でしょう。
◆カニに夢中で腰いたた(2011年8月29日)
◆月光で命輝かすカニたち(2016年8月10日)
◆さらばハロウィン水槽(2021年10月31日)
本種は南国のカニと言って差し支えありません。
沖縄のマングローブに多く、水中に根を張り水上に枝葉を伸ばす「ヒルギ」という植物の樹上でよく目にします。
相模川では2002年に初めて記録されています。
記録した方にもお会いして、採集された時の状況などを詳しく聞くことができました。
そして、私が同じ場所を調査して見つけたのが2011年です。大きな石が積み上げられた護岸のすき間にいて、捕まえるのにすごく苦労しました。
その後、調べを進めていくと、泥の上に転がる石の下にもいることが分かりました。
今回展示したカニは、そこで採集してきたものになります。
本種の一番の特徴は、何といってもその素早さです。
過去の日誌でも書きましたが、移動速度そのものが瞬間移動のように速いうえに、左右へのフェイントや、こちらの視界の外へ外へと逃げていくしたたかさを持ち、あっぱれと言いたくなるほどです。
そんなカニですから、野外でそのくらしぶりを観察するのは簡単ではありませんが、水槽の中でしばらく飼育すると、とたんに性格が図太くなります。
見ている前で餌を食べたり、小競り合いを始めたりします。水槽での展示は、まさに本種のような生物のためにあると思わされます。
展示のレイアウトは、相模川の転石地帯ではなく、あえて沖縄のマングローブを再現したものにしました。
このカニには、やっぱり樹上がよく似合います。
相模川でも、樹木が水上にせり出した場所があるのですが、なぜかほとんど登っていません。
このくらしぶりの違い、これはもしかすると、と思ったりします。今後の研究を待ちたいと思います。
私が好きなポーズは、ずばり頭を下にした写真のようなたたずまいです。
まるで天井にはりつく凄腕忍者です。
水槽内でもこのたたずまいをしてくれて、ありがとうと言いたいです。
自然ではこの状態から、一瞬で枝をかけ上がったり、裏へ裏へまわりこんで逃げたりするのです。
さて、「相模のカニ展」お楽しみ頂けましたでしょうか。
展示やこちらの日誌を通じて、カニ好き人間をドンと増やすことができたかな?とひそかに期待しています。
そんな皆様に朗報です。
フタバカクガニをはじめとしたいくつかは、この後も常設展示の方で引き続きご覧いただけるようにしたいと思っています。展示内容は順次、ホームページのトップやこちらの日誌でお知らせします。
伊藤