飼育日誌

2023.02.01

相模のカニ展⑥ イソガニ

皆さまこんにちは。
特別企画展「相模のカニ展」も折り返しです。
ややマニアックな語りが続いてモタレ気味でしょうから、このあたりで箸休め。
イソガニについて語ってみます。


イソガニ

おそらく多くの方々にとって、なじみがあるカニではないでしょうか。

その理由として思い浮かぶのは、
・石や岩のある海に行けば、どこでもいる。
・特徴的な模様と適度なサイズ
・動きがゆっくり
というところでしょう。
ずばり、見つけやすくて捕まえやすいです。
幼少期の磯遊びでたわむれた方も多いと思います。

さて、今回は1つ目「どこでもいる」について深堀ってみます。
その名が示す通り、海の岩場や転石に多いカニであるのは確かです。
外海に面したところから、内湾のどんよりしたところまで普通にいます。
常に水に浸かっている低い位置だけでなく、たまに波しぶきがかかるだけの高い位置まで見られます(なるほど!だから潮が満ちている時でも、採って遊べるのでしょう)。


よじ登るのも上手。

そして川。川にもイソガニがいることは以前にも日誌で紹介しました。

ですが、泥や砂、ヨシ原のところにはあまりいません。砂の上に石がごろごろしているところや、コンクリートや消波ブロックがある「かたい環境」の方が好まれるようです。相模川にはそういった環境が多いです。


イソガニのすむ相模川河口の人工岩場

ベンケイガニの仲間ほどは出歩かず、基本的に物陰に潜んでいます。
それでもこの仲間(モクズガニ科の小型種)の中では立体的に活動する方です。
護岸や橋脚の高い位置にいることもあって、驚かされます。
相模川では、河口から1.5kmほど上流、馬入橋のあたりまでいることが分かっています。
このあたりまでさかのぼると、水辺の景色は「完全に川」ですが、実は海水が入り込んでいます。
海の満潮に合わせて、海水が上流からの淡水とあまり混ざらずに、水底をなめるように上流方向へ差し込むのです。これを「塩水くさび」と言います。
そして、これは半分想像ですが、干潮時に取り残された水たまりや湿り気は、水分が蒸発してより塩辛い水となり、塩分を必要とする生き物たちの「塩分チャージの場」となるのではないかと考えています。
このような海水の影響下にある川の流域を「感潮域」と言い、本来の下流域が持つ特徴でもあります。

ところで、私が「相模川らしさとは?」と質問を受けたら、「海っぽい川」だと答えます。
関東のど真ん中、大陸から最も遠い場所にある相模川は、在来の純淡水生物が少ないぶん、「海からやってくる生き物」の割合が高いのです。
現在の相模川では、寒川取水堰あたりを境に「純淡水の下流域」と「感潮域の下流域」に分かれています。
過去の調査により、相模川で見られるカニの90%以上が感潮域にいることが分かっています。なので、人の手が入る前の相模川は、今よりもっと上の方まで「海っぽい川」だったのだと思います。

…あれ、あっさりイソガニトークをしようとしていたのに、いつものこってりマニアックトークとなってしまいました。失礼しました。

展示では、よくある海辺のレイアウトではなく、あえて川っぽいレイアウトで展示してみました。これも本来の姿です。イソガニの「カワガニ」としてのくらしぶりを想像して頂けたらと思っています。

伊藤


2024年12月
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