飼育日誌
相模のカニ展④ ハシリイワガニモドキ
皆さまこんにちは。
そろそろ冬休みも終わりですね。
特別企画展「相模のカニ展」のマニア語りシリーズ、2023年初回にふさわしい?とっておきをチョイスしました。ハシリイワガニモドキです!
黒い甲らに白や緑の点がちりばめられ、額(眼と眼の間)が広い「でこっぱち」、紫色に輝くハサミに、剛毛の生えた脚。全体的にヒール感が漂うシブいカニです。
本来は沖縄のマングローブ林などで見られる南方種で、相模川で見つかったのはつい最近、2017年のことです。というか、見つけたのは私です。
その日は12月、寒空の下で河岸の石ころを転がしながらカニを調査していました。すでに多くのカニたちが休眠に入っており、見つかるのはイソガニの仲間がちらほらという状況。カニが少ないのでいつもよりじっくり観察していたのでしょう。ハサミや脚の付け根にトゲトゲがあることに気づき、晴れて初記録できたのでした。
それでコツをつかみ?立て続けに駿河湾や江の島でも見つけることが出来ています。
駿河湾では、2019年に家族旅行で行った海水浴場で見つけました。
子どもを浮き輪に乗せてのんびり引き回していて、ふと目をやった消波ブロック。そのすき間に逃げ込むカニを見てしまいました。
「今の感じ…いつものイワガニやイソガニと何か違うぞ」と思いました。
子どもを妻に任せ「15分…30分だけ!」とカニ採りに集中して、予感的中、ハシリイワガニモドキだった、というわけです(…以前も同じようなことを書いたような?)
「9月24日バカンスで新発見」
江の島では、2020年の夏に見つけました。
2018年の時点で、すぐ北に注ぐ境川の岸壁で見つけたという知り合いの話を聞き「これは江の島にもいるはず!」と思って探しました。相模川や駿河湾での経験から足元のすき間や石ころの下ばかり探していたのですが、全然見つかりません。視野を広げて捜したところ、垂直に切り立つ橋脚の上で見つけることが出来たのでした。
そして今回展示した相模川産の個体です。
江の島での経験から、真っ先に橋脚を探したところ、ビンゴでした。
ミニサイズが少ないながら見つかりました。
その後、たまたま流れ着いていた大きな流木でも見つけました。
水没する位置にどっしりと安定した「木」があれば、マングローブの住人らしく、積極的に居つくことが想像されました。
実はこの流木がすごくて、ハシリイワガニモドキの他にも、いくつかの珍ガニが居ついていたのでした。そのお話はまたどこかでと思います。
ということで、9月までに採集したハシリイワガニの幼体を、何とか冬に展示すべく育ててきたのです。今回、うまく育てることのできた元気な1個体を展示できています。
今回展示したカニの中でも「生きた状態での展示」がレアだと思います。私もきちんと展示できたのは今回が初めてです。
元気な姿を見たい方はお早めに!(標本展示は常設しております)。
なお、相模川、駿河湾、江の島での初記録の詳細は、全て論文として公表しています。詳しく知りたい方はカニの名前と私の名前で、検索してみて下さい。
この手の報告は「少なくともこの時代この場所で、この種が確かに生息していた」という情報を伝える良い手段だと思っています。こうした報告を「積み重ねる」ことで、原則的には未来永劫、私がこの世を去った後も知的財産として共有されます。これが研究の本質だと思うのです。永遠の命を持ち、常に語り続けられるのなら別ですが、私たち人間も動物、寿命というものがあるのです。新年の抱負も兼ねつつということで、これからも地先の生物を研究していきたいなと思っています。
だいぶ長くなりましたが以上、ハシリイワガニモドキ(と研究の話ちょっと)でした。この調子で今年も相模川の生き物について語ってまいります。どうぞよろしくお願いします。
伊藤