飼育日誌
ただいま貝展準備中② マガキ
皆さまこんにちは。
今週末にオープンとなる秋季特別企画展「貝展~みんな知ってるカイ?~」。
だいぶ展示が立ち上がってきています。
あと一息です。
オープン直前にご紹介するのはマガキ。
みんな大好きオイスターです。
アサリ、ホタテと並んで、最も日本人に食べられている貝じゃないでしょうか。
その養殖量は海産物としてはノリ、ホタテに次ぎます。
本種が相模川の一員でもあることは、以前の日誌でお伝えしました。
飼育日誌2024.05.31 検証!相模川で潮干狩り①
ということで会場内の「相模川の貝」コーナーで展示します。
皆さまが目にするカキはほとんどが養殖もので、しかも食べやすく加工されている場合が多いです。
今回は是非、自然下のマガキを知って頂きたいと思い、神奈川県のマガキ生息地をリポートします。
上のリンク先の日誌でちらっと紹介した、三浦半島の干潟です。
泥の上に白いものが無数に見えますね。
ほぼ全部マガキです。
ここは、川の水と海水が入り混じる低塩分の水域です。
まわりには工場やビルが立ち並び、そこからの排水も加わります。
はっきり言って、護岸、開発されまくり、です。
そんな人の営みをものともせずに、ありとあらゆるものにマガキがびっしり。
サイズはやや小ぶりですね。
マガキは夏が繁殖期ですから、これらは1歳前後の「若者」だと思われます。
潮の干満で水没と干出を繰り返す潮間帯にいるマガキは、ある意味「ちょいちょい陸上生活する二枚貝」だとも言えます。
1日に1~2回、水から出されて「断食」し、夏は高温に、冬は低温にさらされ、強く鍛えられたカキだけが残ります。それによって、密度が高まり過ぎないようにもなっているのでしょう。
一方で、水から出されるメリットもあります。
乾きに弱い他の付着生物が、カキの表面に付き過ぎることを抑える効果があるのです。
カキを干出させることは良い効果があるとして、養殖でも稚貝をあえて干潮時に水から出る高さに吊るす「抑制」を行います。
次に塩分。低塩分の環境では、カキの活動がゆるやかになることが分かっています。
逆に考えれば、高塩分の海で常に水中養殖されるカキがぐんぐんと成長する理由にも納得がいきます。
でも、もしかすると低塩分の潮間帯でのライフスタイルこそ、カキにとって自然なのかもしれません。
カキたちはある程度成長すると繁殖に参加し、力を使い果たして一生を終えてしまうものが多いと言われます。
低塩分下でゆっくり食事をし、潮の干満で「断食」をはさむ、お坊さんのようなスタイルが、本来のマガキらしさなのかな、と想像します。
さて、マガキそのものの生態について深掘るのはこのくらいにして、私の興味ある話題を一つ。
それはマガキが作り出す「快適な居住空間」です。
これをご覧下さい。
ホソウミニナやアラムシロガイ、その殻に入ったユビナガホンヤドカリなどです。
マガキがひしめき、重なり合って塊となった「カキ礁」は立体的に多くのすき間を作り出します。また、マガキ自身が呼吸や食事のために水を吸い込むので、すき間の奥にも常に新鮮な水が流れます。
小さな生き物たちにとって良い住処になるのです。
私が大好きなカニを探すときも、カキのすき間は見逃せないポイントになります。
例えば、相模川では今も珍種と言えるトゲアシヒライソガニモドキです。
これを初めて採集したのも、南伊豆のカキ礁でした。
飼育日誌2023.02.25 相模のカニ展⑧ トゲアシヒライソガニモドキ
注目すべきは、マガキが人工物にもバンバン付着してカキ礁を作り出す点です。
人にとっては、せっかく整備した水辺をギザギザ、ボコボコにされてしまうので不便なことなのですが、開発によって生き物がすみにくくなった場所に、再び生き物の生息空間を作り出す効果があるのです。いつか本格的に調べてみたい気持ちです。
さて、今回のマガキの展示担当者はカキ礁のある海に潜水して観察した経験があるそうです。
私以上に自然下のカキの姿を再現できるはず!ご期待です。
ここでグッズのお知らせです。
当館の売店では、お店の担当者が特別企画展に関係したグッズを仕入れています。
今回は、事前に仕入れてあり、すでに販売中のこちらに注目。
「すみっコぐらし カキ」です!
水族館限定シリーズの一つで、ペンギンやアザラシのグッズと並ぶ、まさかのカキグッズです。
「しろくま」「ねこ」などの人気キャラクターが、カキをまとっているなんて!
本物のカキの貝殻は固くて鋭くとがっていますから、とても抱っこはできません。
でもこれなら、ふわふわ、抱っこし放題。これは欲しい!
数量限定ですのでお早めにどうぞ。
伊藤