調査・研究
チシマドブガイ幼生の塩分耐性に関する研究成果が論文掲載
相模川ふれあい科学館では、北里大学をはじめとする生き物の研究者と協力して、イシガイ目の淡水二枚貝(イシガイ類)の生態解明をすすめています。
淡水域だけにすみ、移動力が低いと考えられてきたイシガイ類ですが、寄生能力のある幼生時代に、宿主の魚に寄生して遠くへ運ばれていることが分かってきました。私たちは、淡水域内だけでなく、幼生が魚に寄生したまま汽水域や海域をも通り抜けることで、近隣の別水系へと分布を広げる可能性もあるのではないかと考え、それに関連するデータを集め続けています。これまでに、数種類のイシガイ類の幼生について、魚に寄生している間であれば、塩水に曝されても生存し続けられることを明らかにしてきました。
このたび、チシマドブガイという種類の幼生についても、寄生期間中に高塩分の塩水に耐えて生存でき、稚貝への変態に成功することを確かめました。その成果をまとめたものが、このたびアクオス研究所が刊行するオンライン学術雑誌「水生生物」に掲載されましたのでお知らせします。
掲載誌 水生動物 Vol. 2025 2025年1月発行
題名 北海道産チシマドブガイの寄生期間における高塩分耐性
著者 伊藤寿茂(相模川ふれあい科学館)、柿野 亘(北里大学獣医学部)、成田 勝(東北緑化環境保全株式会社)、竹内 基(岩手県立久慈高等学校)
チシマドブガイは今のところ、日本では北海道の一部だけで生息が確認されている謎の多いイシガイ類です。一方で世界に目を向けると、その分布はイシガイ類の中でも極めて広範囲にわたり、ロシアの東部からベーリング海峡をまたぎ、アラスカ、カナダの南西部にまで及んでいます。多くの日本産イシガイ類が、陸続きの日本の中だけでもよく似た別種に分かれ、ひしめき合って分布するのと対照的です。今回の実験では、入手や飼育の面で扱いやすいミナミメダカを宿主として用いましたが、国外で調べられたチシマドブガイ幼生の宿主の中には、海と川を行き来する「通し回遊」を行う魚種がいくつも知られていることから、他のイシガイ類よりも海を通って分布を拡大しやすい可能性があります。それを示唆するためのデータはまだ十分とは言えず、今後の課題となっています。引き続き研究者間で連携して、本種をはじめとするイシガイ類の生態を明らかにしたいと考えています。
伊藤