調査・研究
カタドブガイの初期発生に関する研究成果が論文掲載
イシガイ目の淡水二枚貝(イシガイ類)は、赤ちゃんの時代(グロキディウム幼生)に、魚の体に寄生して育つ性質があります。興味深いことに、貝の種類によって幼生が寄生し続けられる相手が、ある程度決まっています。そのような寄生相手を「宿主」と呼びます。
イシガイ類が繁殖して分布を維持拡大するためには、同じ水域に相性の良い宿主が一緒にすんでいることが重要です。貝と宿主が上手く出会えなくなることが、貝が減少する原因の一つだと考えられています。
相模川ふれあい科学館では、北里大学や東京海洋大学をはじめとする生き物の研究者と協力して、イシガイ類の生態解明をすすめています。このたび、北海道から入手したイシガイ類の幼生を様々な「宿主候補の魚」に寄生させてみて、その相性を確かめる飼育実験を行ったところ、これまでに報告のなかった8種類の宿主を見つけることができました。さらに、宿主への寄生を終えて水底でくらすようになった「稚貝」を東京海洋大学の研究設備で育成してもらったところ、約2ヶ月間で幼生の約5倍のサイズまで育てることに成功し、その間の行動や成長の様子を記録することが出来ました。さらに、研究に使用した貝の種類を同定するために、最新の遺伝子解析技術を用い、カタドブガイであることが判明しました。カタドブガイは朝鮮半島から本州の日本海側と、北海道から樺太にかけて分布するイシガイ類で、日本だけでも形のよく似た種類がたくさんいます。今回の研究で正確な種同定には遺伝子解析が有効であることが実感できました。
これら一連の成果が、アクオス研究所が刊行するオンライン学術雑誌「水生動物」に掲載されました。
掲載誌 水生動物 Vol. 2024 2024年5月発行
題名 飼育下で観察されたカタドブガイ幼生の宿主魚類と初期発生
著者 伊藤 寿茂(相模川ふれあい科学館)、柿野 亘(北里大学獣医学部)、成田 勝(東北緑化環境保全株式会社)、團 重樹(東京海洋大学海洋生物資源学部門)、竹内 基(岩手県立久慈高等学校)
カタドブガイの宿主については、過去にも研究成果を論文にしています。その成果を合わせると、本種について私たちが判明させた宿主は計24種となり、イシガイ類の中でもあまり相手を選ばずに、多種多様な魚種を宿主として利用できることが示されました。また、外部の研究機関と連携することで、当館だけでは難しかった稚貝の育成や、遺伝子解析による種同定で成果を得ることができました。引き続き、カタドブガイが自然下で実際にどの魚に寄生し、どんな環境で育つのか確かめていく必要があります。今後も研究者間で連携して、本種をはじめとするイシガイ類の生態を明らかにしたいと考えています。
伊藤