調査・研究
イシガイ類の生息環境の保全に関する総説が論文掲載
イシガイ目の淡水二枚貝(イシガイ類)は、当館でも展示される希少なタナゴ類が卵を産み付ける「ゆりかご」となる重要な生き物です。イシガイ類の多くは世界中で絶滅の危機にひんしており、その生息環境の保全をすすめる必要がありますが、そのために参考となる分類や生態をはじめとする基礎的な情報がまだまだ不足しています。
相模川ふれあい科学館では、北里大学をはじめとする生き物の研究者と協力して、イシガイ類の研究をすすめています。このたび、世界中の研究者が過去に行った研究に、近年の私たちの成果を加えた総説が、日本動物分類学会が刊行する学術雑誌「タクサ 日本動物分類学会誌」に掲載されました。
掲載誌 タクサ 日本動物分類学会誌No.54 2023年3月発行
題 名 イシガイ類とその生態環境の保全 ―カワシンジュガイ科,イシガイ科の分類体系変更に着目して―
著 者 柿野 亘(北里大学獣医学部)、竹内 基(岩手県立久慈高等学校)、伊藤寿茂(相模川ふれあい科学館)、成田 勝(東北緑化環境保全株式会社)、中村咲蓮(北里大学獣医学部)、塩練元輝(株式会社建設環境研究所)、杉山真言(北里大学獣医学部)、岡田あゆみ(北里大学獣医学部)、筏井宏実(北里大学獣医学部)、眞家永光(北里大学獣医学部)、馬場光久(北里大学獣医学部)
リンク先
https://www.jstage.jst.go.jp/article/taxa/54/0/54_23/_article/-char/ja
大勢の研究者が協力して集めた成果と情報を総説として取りまとめられたのは、北里大学獣医学部の准教授、柿野 亘先生です。先生とは10年以上前から、ヨコハマシジラガイをはじめとするイシガイ類の調査を共同で行ってきました。
総説の内容を読んでいただけると、イシガイ類の種類を外見から見分けること(種同定・種分類)がとても難しいことが分かります。今のところ、正確な種同定と種分類には遺伝子を取り出して専用の機械で分析する方法がメインになりつつありますが、誰もが手軽に行える方法ではありません。種類が分からないと、その生き物の調査・研究もすすめにくくなります。生態面では、幼生時代に魚の寄生虫として過ごす特殊さが際立っています。寄生の相手となる魚の種類や、寄生している幼生のくらしぶりが少しずつ明らかになってきました。一方で、寄生生活を終えたばかりの稚貝が自然の川や池でどのようにくらしているのかがはっきりせず、飼育して育てるのも難しい現状があります。まだまだ調べなくてはならないことが残されていますが、これからも大学や他の博物館と協力して、イシガイ類を研究していきたいと考えています。
※参考 ミニ企画展示(2023年4月9日まで展示)
伊藤