飼育日誌

お知らせ 2025.01.04

きまぐれな渓流の女王

皆さま、あけましておめでとうございます。
特別企画展「渓流展~川がはじまるところ~」お正月もたくさんの皆さまにお越し頂けています。
今回は渓流魚らしい渓流魚の筆頭格、アマゴについて語ります。


アマゴの展示

当館で常設展示しているサクラマス(降海型)とヤマメ(サクラマスの河川残留型)と近縁な、日本固有の別亜種です。
人によっては、種としての名前をサツキマス、その河川残留型をアマゴと呼ぶ、というのがしっくりくる方もおられるでしょう。

西日本に分布するイメージがあり、実際その通りなのですが、実は神奈川県にも自然分布する魚です。
相模川より西側にある、酒匂川や早川あたりで、ヤマメとの雑種が見つかったり、川の左右をはさんだ支流でキッチリと亜種が切り替わる、といった具合です。
なので、当館で常設展示していてもおかしくない魚なのですが、満を持しての登場となりました。

最大の特徴は体に散りばめられる赤い斑点模様で、これの有無でヤマメと区別できます。
雑種ではこの斑点が控えめだったり、体の中心部分だけに並んだりします。
涼し気な外見から渓流魚らしさを最も感じられる魚として、今回の特別企画展の主役をはっています。あどけなさの残る幼魚なのがまた、可愛らしいです。


アマゴ

さて、ここからはいつものマニアック語りです。
河川残留型(海に行けるけど行かない)や陸封型(海に行けない)、降海型(海と川を回遊する)がいるサケの仲間にあって、サクラマス類(ここからはヤマメとアマゴをひっくるめた呼称とします)の移動は「ざっくり」という言葉が当てはまります。
有名なサケ(シロザケ)では「しっかり」生まれた川に帰ってくる母川回帰が知られます。
それに対して、サクラマス類の回遊は割といい加減で、ふわっと別の川に入って行ったり、海に出てからフラフラと変なところへ泳いでいくケースがあります。
その証拠の一つがこちらです。


相模湾で漁獲されたサツキマスらしき魚(画像提供:新江ノ島水族館)

約20年前に、江の島の定置網に入ったもので、当時私も実物を見ています。
海へ向かうサケの仲間には、体の模様が消える銀毛(スモルト化)が起こります。
体の後ろの方をよく見ると、アマゴの特徴である赤い斑点がわずかに残っています。
そもそも、神奈川県の川では降海型のサクラマス類自体がいないと言われていたので、とても驚いたのでした。サクラマス類はれっきとした相模湾記録魚種でもあるわけです。

さらにややこしくて楽しい話があります。
降海時期にしっかりとスモルト化して海へ向かう多数派の他に、子供時代の模様を残したまま海へ向かう少数派がいるのです。北海道で行われた研究において、そうした個体が別の川へ短期間のうちに移動していた例も知られています。北の地域や、寒い時期であれば、暑さに弱いサクラマス類でも中~下流域でくらせます。エサの豊富な場所を求めてか、はたまた大雨後の濁流に流されてしまったか、期せずして海まで行ってしまい、やれやれと適当な近くの川に戻って行った、という妄想が膨らみます。

今回改めて、サケの仲間の移動についてネットで調べていたら、若かった頃の私があれこれ語っている記事が出てきました。
興味がある方はそちらもご覧下さい。
えのすいトリーター日誌 2018年03月17日

ちょっと放言が過ぎる気もしますが、若気の至り、ということでお許し下さい。
相変わらず、こういうことを考えるのが好きなままです。

伊藤


2025年2月
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