飼育日誌
渓流のガマガエル
皆さまこんにちは。
特別企画展「渓流展~川がはじまるところ~」開始直後から多くの皆さまにお越し頂いております。夜なべして設営した甲斐がありました。ありがとうございます。
今回は、渓流にすむ“ガマガエル”こと、ヒキガエルについて語ります。
憧れのナガレヒキガエルが企画展に登場です。
岐阜県にあります「世界淡水魚園水族館 アクア・トトぎふ」様より、貴重な個体をお借りしました。
当館で常設展示しているアズマヒキガエルに似ていますが、ちょっとだけ足が長く、水かきが発達しています。
色は赤みの強い個体が多い気がします。
他のヒキガエルと確実に見分けるには、目の後ろにある耳(鼓膜)をチェックします。
アズマでは丸い輪郭が浮き出て見えるのですが、ナガレでは皮膚の下に鼓膜が埋もれていて、外からはっきりと確認できません。
また、オタマジャクシは口が吸盤になっていて、流されないように適応しているとされます。
自然分布域は本州の真ん中あたり(近畿~中部地方)に限られ、関東地方にはいないことになっています。
自然下はもちろん、水族館でも展示しているところは少ないので、カエルファンの方は必見です。
新人の狩俣飼育員がサマになる水槽レイアウトを作ってくれましたので、見ごたえもバッチリです。
さて、ここからはマニアックな話題になっていきます。
関東地方で見られるアズマヒキガエル。
平野部の農地や住宅地のまわりで見られ、繁殖期以外は水に入らない印象が強いと思います。現在の「森のカエル水槽」での佇まいがそのイメージにぴったり来ます。
「森のカエル水槽」のアズマヒキガエル。矢印の部分が耳(くっきり見える)。
しかし、実は本種も山間部の渓流で見られる場合があります。
特に東北地方の山間部で見られる小型のものは「ヤマヒキガエル」と呼ばれ、アズマヒキガエルの亜種に分けるべきでは、という意見もあるほどなのです。
27年前、私が大学生の頃ですが、同級生が栃木県の山奥で渓流魚の研究をしていました。
川の本流から支流に分かれるところにトラップを仕掛け、朝夕2回、遡上、降下するニッコウイワナの数を数え、測定していました。
調査期間中、家に帰らずにずっと山小屋に住み込んでいた彼、現場で何度かヒキガエルを見た、と言うのです。
しかもなんと「断崖絶壁になっている川岸のくぼみにはまって、たたずんでいた」とのこと。
言葉だけで説明するのが難しいのですが「強い流れに阻まれ、しっかり泳がないとたどり着けない場所」にいた、ということです。
当時の私はそれを聞き「えっ!それってナガレヒキガエルなんじゃないの?」と放言し「今度見かけたらつかまえて!」と頼んだのです。
結局、それはかなわず、私も彼も大学を卒業してしまってそれきりです。
今になって改めて調べてみると、ナガレヒキガエルとアズマヒキガエルの分布の境界はすこし曖昧で、どちらの種類も見られたり、雑種と思しき個体が目撃されたりしているらしいのです。もしかしたら、ナガレヒキガエルの分布域が従来考えられていたよりも東にのびている可能性もあります。
ロマンのある話ですが、妄想の域を出ない現段階では「ナガレヒキガエルが北関東にいた」というよりは「アズマヒキガエル(または亜種のヤマヒキガエル)がナガレヒキガエル並みに渓流環境への適応を果たしている」ということかなと思っています。
全くの偶然でありますが「森のカエル水槽」ができる前まで、当館ではアズマヒキガエルを「両生類水槽」の渓流っぽいレイアウトで展示していました。「イメージと違う!」と感じておられた方もいるかも知れませんが、上の経験談がある私としては「これもあり」と思っていたのでした。
今回の企画展と新展示「森のカエル水槽」では、ほかにも数種類のカエルを展示しています。
どの種も、渓流やそのまわりの森林環境がとても似合うカエルたちです。
今後も少しずつ紹介していきます。渓流ファンだけでなく、カエルファンの皆さまも要チェックです。
伊藤