飼育日誌
ただいま貝展開催中③ ワカサギとイシガイ類
皆さまこんにちは。
「貝展~みんな知ってるカイ?~」オープンして2週間経ちます。
ここらで一息、番外編ということで、貝にまつわる魚について語ります。
今まさに、生きているワカサギが、当館の水槽で泳いでおります。当館初展示です。
在来の分布域は本州中部以北ですが、古くから各地で放流されています。
神奈川県でも芦ノ湖や相模川水系の湖に生息しています。
釣って楽しく、食べて美味しい魚として知られ、種苗生産技術もすすんでいます。
その割に、生きている姿を皆さまが目にすることは、ほとんどないのではないでしょうか。
実は、生きた状態で輸送したり、飼育下で健康を維持するのが難しい魚で、展示している(したことのある)水族館がとても少ないのです。
今回、当館の若手飼育員2名が中禅寺湖で釣り上げたワカサギを、生かしたまま搬入することが叶いました。
私自身は一応ワカサギの展示経験がありまして、その時の展示期間はわずか1ヶ月でした。
今回が2度目の挑戦となります。
えのすいトリーター日誌 2014年12月09日
飼育員一同、頑張って長期飼育に努めます。
生きたワカサギの動きを、目の前で観察できる貴重なチャンスです。
興味のある方はどうか“お早め”にお越し下さい。
さて、遅くなりましたが…ここからは貝の話です。
むりやりつなげようとしているわけではありません。
ワカサギは、私が研究しているイシガイ類と、深い関わりを持つ魚でもあるのです。
今から10年ほど前、同じ貝の研究をしている北里大学の柿野亘先生から、ある湖沼で「一緒に貝を調べませんか?」とお誘いを頂きました。
その湖沼には自然分布のワカサギがすんでいて、定置網で漁獲されていました。
そこで漁師さんにお願いして、漁獲されたワカサギに貝の幼生が寄生しているかどうか調べることにしたのです。
(貝の幼生が魚に寄生する仕組みについては省きます。過去の飼育日誌「貝の赤ちゃんシリーズ」をご覧下さい!)
飼育日誌2024.05.20 貝の赤ちゃん⑨
方法は大きく2つ。
①ワカサギを飼育し続けて、魚体から自然と離脱してくる稚貝を見つける。
②ワカサギを解剖しながら体中をくまなく観察して、寄生している幼生を見つける。
です。
この方法は2つとも的を射ていました。
まず①です。大学キャンバスの片隅に即席の飼育場を作り、そこでワカサギを飼育しながら、水底に落ちてくるものを毎日顕微鏡でチェックしたのです。
私が携わったのは最初だけ。大半は当時の学生さんが頑張ってくれました。
「漁獲でダメージを負っているワカサギを飼う」
当時これを試そうとしたのは、なかなかトリッキーな発想だったと思います。
飼育中に死んでしまうワカサギも多かったのですが、生き残ったワカサギの体から少なくない数の稚貝が離脱して、水底に落ちてくることが分かったのです。
これは「自然下で貝の幼生がワカサギに寄生して、稚貝まで変態できている」ことを意味します。
ワカサギがイシガイ類の宿主であることが、初めて分かった瞬間でした。
次に②です。
こちらは昨年10月の「貝の赤ちゃん⑥」でもお伝えしました。
飼育日誌2023.10.14 貝の赤ちゃん⑥
本来のワカサギは通し回遊魚です。淡水魚でもあり、海水魚でもあるのです。
先の研究から数年ごしで調べた結果、海の水が入り込む汽水域で漁獲されたワカサギの体にも、淡水域と同じようにイシガイ類の幼生が寄生していることが分かりました。
イシガイ類は塩分に弱いため、ワカサギに幼生が寄生したのは淡水域であるはずです。それが海水の入り込む水域で見つかった、と言うことは、ワカサギが貝の幼生を寄生させた状態ではるばる運んできた可能性があるのです。
長くなりましたが「イシガイ類は幼生時に魚の力を借りて塩水の壁を越えているのではないか」という説の補強に、ワカサギが大いに役立ったというお話でした。
特別展会場にも少しだけ、イシガイ類の展示を設けています(イシガイ類ばかりだとマニアック過ぎますから…)。
イシガイ類は神奈川県では生息状況が極めて悪いのですが、上流の湖には生き延びていると考えられます。もしかしますと、移入されたワカサギを宿主にして繁殖しているのかも知れません。とても興味をそそられます。体が動くうちに調べてみたいものです。
伊藤