飼育日誌
ただいま貝展開催中① イイダコ
皆さまこんにちは。
昨日よりついに「貝展~みんな知ってるカイ?~」が始まりました。
展示の解説は極力、入門的な内容で文章少なめとしています。
会場をぐるっと眺めて頂いて、ふんわりと貝の魅力を実感して頂けるところを目指しています。
専門家や収集家の方々にはちょっと物足りないかも知れませんが、大丈夫です!
ここから約2ヶ月間、飼育日誌や当館SNSで追加の内容をご紹介していきます。
ここ飼育日誌では、いくつかの種類について「がっつり深掘って」いきますよ。
準備中の日誌から数えて3つ目に紹介するのはタコ。
「えっ?タコって貝なの?」
これが多くの皆さまの感覚でしょう。
タコやイカが貝の仲間(頭足類)であることは、貝の研究者であればだれもが受け入れています。
私が所属する日本貝類学会の名誉会長、奥谷喬司博士も頭足類の専門家です。
貝を展示するならタコは外せない!とクラウチングに入っていた私に、広報担当者が待ったをかけてくれました。
あまりタコを前面に出してしまうと、貝展らしさが損なわれるのではないか、とのこと。
確かに…!
ちょっと冷静になり、会場全体のバランスを見て、部屋の最奥で厳選した種類を紹介するようにしてみました。
貝展のタコ展示ゾーン。ダイオウイカやミズダコを原寸大イラストでご紹介。
今回メインでご紹介するのはイイダコ。
相模湾をはじめとする浅い海にすむ小さなタコです。
小さいのであまり食用としては出回りませんが、美味しいタコです。
特に成長した雌は、体内にご飯粒のような卵がぎっしりつまっていることから、飯蛸(いいだこ)と呼ばれるようになりました。
このタコの面白いところは、他の貝の殻を「積極的に」隠れ家として使うところです。
展示の個体もこのとおり。
ヤドカリならぬヤドダコ状態。
餌を差し出すと、素早く足をのばしてつかみ、そのまま貝殻の中に取り込んで食べていました。
岩や石ころの代わりではなく、ちゃんと貝殻の構造を巧みに活用したくらしぶりです。
それにしてもこの見た目。かわいいです。
ちょっとロマンをはせるなら、絶滅したアンモナイトをほうふつとさせます。
さらに!今回のイイダコ、なんと卵から育てられたものなのです。
これが、すごいことなのです。
タコの人工繁殖はとても難しく、私も過去に何度か挑戦しましたがうまくいきませんでした。
そんな時、大学でタコの研究をしている同級生から「ふやしたタコを展示にどう?」と連絡がありました。
グゥッドタイミング!
ということで大学育ちのイイダコの展示がかないました。
ここで他のタコ展示についてもちょっとだけ。
大きなツノモチダコ。深海棲のタコです。
名前の由来になっている目の上の突起がユニークでかっこいいです。
2年前の「相模のカニ展」でタカアシガニをご用立て頂いたのと同じ漁師さんにご用立て頂きました。
水槽内を動き回ったりはしませんが、常にうねうね、もじもじ動いていて、見ていて飽きません。
こちらはタコブネ。
今回は過去に私が手掛けた飼育中の動画と、標本の展示となります。
新人の狩俣飼育員が標本の飾りつけを手掛けてくれました。
イイダコと並ぶ「貝殻を使うタコ」です。
タコブネの貝殻は、抱卵と防御のためにメスだけが手作りする「貝殻っぽいもの」なのですが、見事に巻貝の形をしているのが、進化の妙です。別にツボ型でもボウル状でも事足りると思えるのですが…。
貝殻状の舟に乗るから「タコブネ」。ぴったりのネーミングです。
生きている時のタコブネの動きを見られる機会はそうありません。
動画は、YouTubeなどで公開されたことはない、貴重なものです。
ほんの2分間ちょっとですので、是非ご覧下さい。
特に、飼育下で生まれた赤ちゃんの動画は必見です(生まれた時に同級生に育成を頼めていたらなぁ…)。
えのすいから深海ダコの標本をいくつかお借りして、ご覧頂けるようにしました。
ツノモチダコはこちらにも。
過去にえのすいで飼育されていたものです(もしかしたら私が世話していたタコかも…)。
万が一、飼育個体の調子が悪くなってしまっても、こちらで姿形をじっくりとご観察頂けます。
メンダコの標本もあります。これについてはまた後日、改めて深堀りたいと思います。
私はイカタコを専門に扱う研究者ではありませんが、当館に来る前から長年にわたり、繰り返し入手と飼育を手掛けてきました。
それもあって、ひときわ思い入れのある存在でもあります。
それらを当館でも大々的に展示することができたのは喜びの極みです。
是非、究極進化を遂げた貝ことタコたちを、ご覧頂けたら幸いです。
伊藤