飼育日誌

お知らせ 2024.08.06

だいぶ分かった!ウツボの繁殖行動

皆さまこんにちは。
昨日は「土用の丑の日」でした。
土用と言えばウナギ、ということで?
当館でも展示しているウナギの仲間(ウナギ目)、ウツボについて語ります。


当館「流れのアクアリウム河口域」のウツボ

ちょうど、ウツボの繁殖に関する興味深い研究成果が公表されたばかりです。

その繁殖行動について、いくつかの「特徴的な動き」がはっきりと観察された、という内容です。

ウナギの仲間は繁殖生態があまりよく分かっていないグループです。
最もメジャーなニホンウナギですら、海に降りてはるばるマリアナ諸島のあたりの深海底まで移動して産卵することがようやく分かり、研究者レベルで何とか飼育下繁殖ができるようになったばかりです。

一方でウツボ。お腹の中の卵の状態を季節ごとにチェックした結果から、どうやら繁殖期は夏らしいぞ、と言われていました。
しかし、実際に産卵の瞬間を見た方はほとんどいなかったのです。

今回の研究ではまず、夜の海でウツボを観察し、繁殖行動らしき「特徴的な動き」の撮影に成功したのでした。
オスが、メスの口先をガブっとくわえて、引っ張り上げるようにして上方へ連れていくというものです。
ただ残念なことに、ウツボたちがカメラの画面外に泳ぎ去ってしまったため、産卵の瞬間を確認することが叶いませんでした。

そこで、水族館の水槽に「産みたくてウズウズしているメス」を連れてきて、その行動をより細かく観察しようと試みました。
あわよくば産卵の瞬間すらも、おさえられるかも知れません!

研究の舞台となった新江ノ島水族館の「相模湾大水槽」点線の部分にウツボがいます。

研究当時、その水族館に勤めていた私も、微力ながらお手伝いさせて頂きました。
私よりはるかに熱心な同僚が当時のことについて熱く語っていますので、詳しくはそちらの記事を是非ご覧下さい。
えのすいトリーター日誌 2024年07月29日

結果的に、水槽でもウツボの繁殖行動を確認することができまして、自然下の成果と合わせて論文に込めることが叶いました。

ところで、この研究をメインですすめられたのは、当時、社会人として東京海洋大学の大学院生をされていた大森尚也さんです。
彼がウツボに向ける情熱は、“すごすぎる”の一言でした。
真っ暗闇の夜の海に潜水してウツボを観察し続けたり、岩のすき間にひそむウツボを次々とつかまえて夜通し運搬したりと、挙げればキリがありません。
私には到底、真似できないと思いました。
今回の論文をもって、大森さんの手掛けたウツボに関する一連の成果は全て、論文として世に送り出せたそうです。
ご本人や、ご指導にあたられた先生の手で、調べた成果を余すことなく公表できた!
これはとても素晴らしいことです。

調べた成果がいかにすごいことだったとしても、公表しなければその人の「頭の中だけの知識」であり、他の人が自由に利用できません。成果は論文などで公表することで、初めて「生きた情報」として世の中に出て「常に使える状態」になります。

私も大森さんたちを見習って、自身が手掛けた成果を「生きた情報」として世の中に送り出せるよう、頑張っていきたいと思います。

伊藤


2024年9月
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