飼育日誌
似たもの同士?ドンコとアユカケ
皆さまこんにちは。
先日からドンコの展示が始まりました。
館内の右奥の方にあります「トピック水槽」です。
遠方からはるばる当館へやってきたインターンシップ生が作ってくれた展示です。
ハゼの仲間で、大きな頭と口、吸盤になっていない2つの腹ビレが特徴です。展示の個体はやや小ぶりですが、最大で25cmにもなり、大きな個体は迫力があってアンコウのようです。
相模川にいるドンコは国内外来種です。
2002年に初記録された直後に、すぐさま研究者による遺伝子解析が行われ、愛媛県産とよく似た(ほぼ同じ)遺伝子だったという結果が出ています。
たまたまですが、ちょうどこのころ、私も相模川で見つけた記憶があります。
当時は珍しい魚で、思わず声が出たのを覚えています。
ところで、ドンコの分布をめぐる話、ちょっと混み入っていて面白い??ので語ってみます。
西日本にすんでいるイメージがありますが、数十年前まで、多くの文献で関東も在来分布域になっていたのです。
手元にあった愛蔵の古い図鑑をめくってみました。
一冊目は、宮地傳三郎さん、川那部浩哉さん、水野信彦さんの3大魚類学者がまとめられた「原色日本淡水魚類図鑑」。ドンコの分布の東端は太平洋側が栃木県、日本海側が富山県となっています。
二冊目は、当時のコイ科魚類研究の第一人者、中村守純さんがまとめられた「原色淡水魚類検索図鑑」。ドンコの分布の東端は太平洋側が天竜川(長野県~静岡県)、日本海側が新潟県となっています。
両著とも刊行されたのが1963年と同じにも関わらず、見解が異なるのが興味深いです。
他にもパッと調べた範囲で茨城県や栃木県、東京都を東端としている文献が見つかりました。
その後も多くの研究者が調査を続けた結果、今では愛知県と新潟県よりも西側に分布するのが自然、という意見がメジャーです。
決して重要な食用魚でもないドンコについて、これだけ様々な意見があるのはなかなか珍しいです。
なぜ、このようなことになったのか、うだうだ考え始めると止まりません。
まずは、西日本の魚(琵琶湖のアユなど)を東日本に放流した時に、混じっていたという可能性です。これが一番ありそうです。
次に、よく似た魚とうっかり間違えてしまった可能性です。
見た目では、太ったカワアナゴや、アユカケあたりが、サイズも、体形も、いる場所も、模様の感じも、似ています。
ちなみに、これらの2種とも、当館で見ることができます。
名前で間違えた、という可能性もあります。例えば、海水魚のチゴダラは別名ドンコです。見た目はちっとも似ていませんが、ドンコの名で報告書などに記録されていると、読んだ人が川のドンコとして書き写してしまう、なんてことがあるかも知れません。
また、西日本由来の魚がまったく関東にいないかというと、そうでもありません。オイカワやタモロコは西日本が分布の中心ですが、関東にも、元々いたと考えられています。奥が深いです。
相模川では、外来魚のドンコがふえ過ぎて厄介者になりつつあるなか、在来魚のカワアナゴやアユカケは減り続けて絶滅危惧種です。
ドンコは大して移動せずに川の中で繁殖できるのに対して、カワアナゴやアユカケは繁殖のために海まで移動する必要があります。これが明暗を分けているような気がします。
話が広がってまとまらなくなってきましたので今回はこの辺にします。
当館でドンコとカワアナゴ、そしてアユカケを是非、見比べてみて下さい。
伊藤