飼育日誌
貝の赤ちゃん⑨
皆さまこんにちは。
4日ぶりで早くも続編です。
“ドブガイ”の赤ちゃんが、魚に寄生して、うまくいくと稚貝に変態し、水底での生活に移る、というところまで語りました。
その続き、と行きたいところなのですが、今回は残念ながら、稚貝を上手に育てることが出来ませんでした。
何度挑戦しても実感しますが、育てるのがとても難しいのです。
自然の力を借りて、例えば貝の合った水質、エサとなる浮遊物が含まれる湖の一角を使うことで養殖に成功している例がありますが、完全な飼育下で稚貝をおとなまで育て上げた人はほとんどいないのでは?と思います。
なので、ここからはちょっと昔の話になります。
遡ること数年前、研究仲間に同じ“ドブガイ”の稚貝を育ててもらったことがあります。
彼は、海の生き物の卵や幼生を育てるスペシャリストです。
私が何度やってもうまくいかない淡水二枚貝の育成を引き受けてくれたのです。
つい先日、その成果が論文として公開されました。
今回は特別に、その時のオフショットというか、論文未使用の写真を公開します。
まずはこちら。前回の離脱直後の写真と比べて下さい。
幼生の殻の内側から、薄くて透明な殻が成長してきているのがポイントです。
胎殻といい、本来の貝殻のもとになるものです。
そう、幼生の殻がそのまま成長するわけではないのです。
足も長いですね。お前はシャクトリムシか!というくらい動き回りますし、水底に沈んだ植物質のかけらを足でなめとるような動きを見せることもあります。
10日くらい育てるとこんな感じになります。
育てた、というとちょっと違いますね。実はここまでは簡単です。
どうやら適した餌がなくても、魚に寄生していた時にため込んでいた栄養だけでここまでは育つようなのです。ここからが本番、難易度爆上がりです。
まるでガラス細工!美しいです。
そして、まだ幼生の殻(矢印の部分)を乗っけたままなのがカワイイ!
相変わらず足もびよーんと活発にのばします。
そしてさらに…。
このとき育てることができたのはここまででした。
大きさは2mm近く、幼生時代の4~5倍になりました。
“ドブガイ”をはじめとするイシガイ類の稚貝時代の形や色がどのように変化するのか、貴重な情報を得ることができました。
詳しくは論文を読んでみてください。
与えた餌はクロレラという小さな植物プランクトンです。これが餌として有効なことがはっきりしましたので、他の微生物によるダメージと飼育中の脱走の防止が今後の課題です。
特に脱走。垂直なガラス面ものぼって逃げていくのにはびっくりです。
でも、おとなの貝では想像もできないこのワザが、自然の川や湖でどんな風に使われているのか、非常に気になります。
不思議なことに、貝の生息地で稚貝をみかけることは非常にまれです。
通常、魚もエビも小さい時代の方が数が多いわけなので、イシガイ類の七不思議の一つです。
もしかすると、お得意の移動力で、思いもかけない場所に潜り込んでくらしているのかも知れません。
このあたりの謎が解けると、イシガイ類の研究が一気に進むのではと思っています。
そのためにも、飼育下で幼生の宿主を見つけたり、稚貝を育てたりすることは意味があると信じ、今後も当館らしい研究をしていきたいと思っています。
伊藤