飼育日誌
鮎河のアユ
皆さまこんにちは。
当館では複数の水槽でアユを展示しています。
4月に入り、当館に今年生まれのアユが新たに仲間入りしました。
アユは相模川の固有種ではありませんが、相模川のシンボル的存在だと言えます。
その理由の一つとして、かつての相模川がアユの多い清流として知られ、鮎河(あゆかわ)と呼ばれていたからです。
相模川の名を冠する当館としては、長年にわたりアユを“推し魚”として展示してきたというわけです。
毎年春になると、県の漁業関係者が育てたアユを分けて頂いています。
漁業関係者によるアユの育成は、内水面試験場や漁業振興会、種苗センターが連携し合って計画的に行われています。
育てられたアユの行先は様々で、今回のように当館で展示されるケースなどもあるのですが、メインは川への放流用です。
相模川には、シーズンになると大勢のアユ釣り師たちがおとずれます。釣られたり、食べられたりする分を考えながら、関係者の方で必要な数をふやしたり、ある程度育ててから放流しているわけです。
現在、神奈川県の漁業関係者が相模川に放流しているアユは、ほぼ全て相模湾産のアユか、その子孫とのことです。かつては別産地のアユが放流されていたこともあることを考えると、適切なことだと思います。
さて、川魚の代表格とされることもあるアユですが、そのくらしぶりはなかなかに変わっています。
体が黒ずむ婚姻色の出た“さびあゆ”
(提供:栃木県水産試験場)
繁殖期は秋です。川に産み付けられた卵から生まれた赤ちゃんアユは、川をどんどんくだって海に出ます。
海でくらす時期の仔魚“シラスアユ”
(提供:栃木県水産試験場)
そして、冬の間“シラスアユ”としてすごします。
春になり、アユらしい体型のミニチュア「稚アユ」になると、今度は川をのぼり始めます。
小さな動物を食べながら、どんどん成長します。
初夏のころ、中流域までのぼってきたアユたちは、なわばりを持ち、石の表面に生える藻類を食べながら、繁殖期の秋に備えます。
つまり、アユの一生のうち、ほぼ半分は海にいるわけです。
冬のアユはれっきとした海水魚です。
私たちはアユたちのメインステージが川だとイメージしがちですが、彼らからしてみたら「青春時代は海」だと思っているかもしれません。
以前の日誌で、相模川は「海っぽい川」と書いたことがあります。
相模川は在来の淡水魚が少ないぶん、アユをはじめとした海と川を行き来する生物の割合が高い川だと言えるからです。
私が好きなカニ類やエビ類の多くも、アユと似たようなくらしぶり(通し回遊)です。
日本の川の中でも、なかなか独特な一面を持つ川だと感じます。
それにしても…漁業関係者から分けて頂いたアユたち、とてもきれいに育てられていて、ほれぼれしますね。
この姿を維持しながら、これまで以上に上手に育ててお見せできるよう頑張りたいと思います。
伊藤