飼育日誌

2024.01.26

初めてのカメレオン

皆さまこんにちは。
現在開催中の特別企画展「いきものたちの目」お楽しみ頂いておりますでしょうか。

今回の特別企画展の「船頭」は、ベテランの竹本飼育員です。
カメラが好きで、撮影の腕はプロ級。カメラで「見る」ことに関する見識からあふれ出す個性が、存分に発揮された展示になっています。
同僚から見ても、大変勉強になります。

さて、今回に限らず、当館の特別企画展では、担当動物を「船頭」からお願いされることが慣習となっています。
今回、私にふられた担当生物は…カメレオン!
最初に聞いた時、正直「えっ!」となりました。

別にカメレオンがキライなわけではありません。
昔から爬虫類が好きでしたので、むしろ憧れであり、いつかは飼ってみたいと思っていました。
ただ私、実は昼行性の樹上性トカゲにこれまで縁がなかったのです。
カメレオンは、数ある樹上性トカゲの中でも「曲者で上級者向け」とされています。
もうちょっと飼育技術が上達してから…と思っていたら、いきなり今、というわけです。
というわけで、担当すると分かってから、カメレオンの飼育について勉強する日々でした。

そして12月中旬、ついにカメレオンがやってきました。
エボシカメレオンのオス。カメレオンの中では丈夫で飼いやすいと言われる種ですが…輸送の疲れか、やつれて見える…心配過ぎます。
その日から、彼の調子に一喜一憂しながら過ごす日々が始まりました。
そうこうするうちに約1ヶ月が経過し、餌もよく食べるようになりました。
まだ油断は出来ないものの、飼育経験を踏まえて当館カメレオンの「くせ」について、ちょっと語ってみる気になったのでした。


エボシカメレオンのオス

その① 水を飲んでいるか分かりにくい!
 自然下におけるカメレオンは、葉っぱにたれる結露の滴(しずく)や、雨水を飲んでいます。彼らにとって水は、樹上でポタポタ落ちたり、ツルンと滴りきらりと光る、スライムみたいな認識なのでしょう。
なので、水入れを地面に置くだけでは、水を水として認識しないことが多く、水を目の前にしながら脱水して急激にふらふらになってしまうと言うのです。大変です。
カメレオンに水を「飲める水」だと気づかせるには、水を動かし、きらめかせる必要があるそうです。


エアレーションで水面が泡立つ水場


水がポタポタしたたる水場

今回は、エアレーションで水面を泡立たせたり、天井から点滴したり、頻繁に葉っぱに霧吹きしたりしてみています。
でも、なかなか飲んでいるところを目撃できません。
ストレスにめっぽう弱いカメレオンに対して、良くないかとも思いましたが、迎え入れてから数日間は、鼻先に水を垂らして、飲ませていました。
…いまだに、ごくごくと飲んでいるところをあまり見せてくれないのですが、食欲もあって元気そうですし、きっと見ていないところで飲んでいるのだろう…と思っています。

その② 見つめられるのが苦手
 そんなことを書くと「もっと観察したらいいでしょ」と言われそうです。
私もその気持ちはあるのですが、実はカメレオン、人から見られるのが得意ではありません。
 特に、じっと見つめられたり、上から見下ろされるのが苦手で、ストレスでエサを食べなくなってしまうこともあるとか…。
 慣れていない個体を観察する時は、横目でチラチラ見るだけにするか、裏ワザとしてサングラスで目線が分からなくするのも良いみたいです。
とは言え、展示が始まったら皆さまにバンバン見てもらうわけですから、何とかしてあげなくてはなりません。難題続きです。


アクリル板と金網で自作した展示ケージ


上の方でご機嫌?

 どうしようかと考えた挙句、展示窓よりもケージの高さをぐんと上げ、カメレオンが皆さまの目線よりも上でたたずめるようにしてみました。
 彼らは相手を見下ろしていると、安心して過ごしてくれるとのことです。
 ということで、カメレオンが上にいる時は、ちょっと観察しづらいのですが、どうかお許し下さい。この配慮のおかげで、元気にしてくれていると思っています。
 最近はだいぶ慣れてきて、下の方にいてくれることもふえました。

その③ エサの好き嫌いがある
 自然では色々なものを食べているはずなのですが、飼育下では一度美味しいものを覚えると、そればっかり食べる「偏食家」になるケースが多いようです。

エサのコオロギ。よく食べてくれます。

それを踏まえて、当館では栄養価が高く、かつ手に入りやすいコオロギをメインに与えています。
 また、ずっと目の前にエサがあると「見飽きる」ことがよくあるそうで、当初は1時間くらいエサを置いたら、残していても取り出すようにしていました。
 が、これがイマイチでした。数匹だけ食べて残すことが多かったのです。そこで試しに「見飽きる」ことを覚悟の上で、エサを数時間にわたり置きっぱなしにしてみました。
結果オーライ。当館のカメレオンの個性だと思うのですが、残さず食べてくれるようになりました。どうやら時間をかけてチマチマ食べるのが好きだったみたいです。
ちなみに彼は、あまり舌を延ばして食べません。エサのカップに顔を突っ込んで、直接かじりついています。
最初は、水が飲めていないのでは(水が飲めていないと舌のくっつきが悪くなる)と心配しましたが、かれこれ1ヶ月この食べ方で元気そうなので、これも個性だと思っています。

その④ 野菜も食べる
 エボシカメレオンに特有の食性だそうですが、自然下では植物も食べます。
 1990年代に日本へ紹介された時は「植物食のカメレオン」として異彩を放ったと聞きます(実際には「ちょっと食べる」だけだったわけですが)。
飼育下で、ポトスなどを入れておくと食べるそうですが、ポトスは一応、毒草です。カメレオンが食べても問題ないようでしたが、ここは慎重に、豆苗を入れてみることにしました。
 これも結果オーライで、食べてくれています。水不足の時の水分補給にもなるので、ちょっと続けて与えてみようと思っています。

 と、こんな感じで、飼育員でも、初めて買う生き物に四苦八苦することがあるのです。今では図鑑やネットでちょっと探せば、カメレオンの情報そのものは、すぐ集めることが出来ます。それでも、実際に飼ってみて初めて気づくことがあったり、その個体だけの個性に戸惑ったりすることも多いものです。
残りの一か月半、油断せずに健康なカメレオンを育てつつ、ご覧頂きたいと思っています。
「じろじろ見つめずに」是非「ちらっと見上げて」頂けたら幸いです。

伊藤


2024年11月
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