飼育日誌
すごいぞアベハゼ
皆さまこんにちは。
当館には、博物館の学芸員資格取得を目指す学生さんが実習に訪れます。
(今年度は応募が大変多く、すでに締め切らせて頂いております。)
インターンシップを学芸員実習として大学側にみなしてもらうスタイルをとっております。
基本、学生さんには、私たちの日常作業をバリバリお手伝いして頂きます。
その中で、一つは実習らしい課題にも取り組んでもらうことにしています。
7月後半に来ていた学生さんに課したのは「実習生による水槽展示」の制作です。
展示する生き物のチョイスには学生さんの希望を聞きつつも、私から「おすすめ」を提案することもしばしばです。
1~2ヶ月に1回のペースで更新していると「この種は前も展示したしなぁ…」ということがふえてきます。
そんな中で、魅力的であり、常設展示種と被らない生き物を、できるだけ展示してもらおうと思っています。
今回は、アベハゼをおすすめしたところ「いいですね!頑張ります!」となりました。
私の大好きな魚の一つです。丸っこいタヌキ顔と、オレンジと黒のメリハリのきいた色合いはミヤコタナゴをほうふつとさせます。
さらに、特殊能力をいくつも持つ、すごい魚でもあります。
能力1つ目。汚れに強い!
有害な物質を体内で分解できるのです。自然下では、黒い泥が匂うような、ごく浅い水たまりにもいます。
他の魚がすめないようなところを「敵がいない安全地帯」としてあえて選んでいる感じすらします。
能力2つ目。酸欠に強い!
水が干上がってしまっても、体が濡れてさえいれば耐えしのぎます。
そして3つ目。陸上を移動する能力がある!です。
これに関しては2014~2015年に面白い論文が出ています。
狭い水たまりに複数のアベハゼが取り残されたときに、積極的に陸上を移動して広い水場へ移動する、というものです。
面白い情報があるよ、と学生さんに伝えたところ、この内容を解説内容にこめてくれたのでした。
博物館の発信する情報として、私が望ましいと思うさじ加減があります。それは、
「論文などで報告されたばかりで、まだ世間に知れ渡っていないホットな情報」です。
「新しい情報の広報」も広い意味での研究発信だと思うからです。
そういった意味では、今回の展示解説はお気に入りです。
…ところで、この「アベハゼの上陸移動」論文を最初に見た時、少しギョっとしました。
まず、以下のリンクを見てほしいのです。
こちらは、若かりし日の私が書いたものです。
アベハゼの陸上移動について熱く語っているではありませんか。
論文が出る5年も前です。
論文の著者の方と、このことについて語り合った記憶はないのです(たぶん)。
しかも、研究結果が、偶然にも私の妄想を裏付けてくれているではないですか。
「こんなことってあるんだな~うれしい」という思いと、
「ああ、すぐに自分で実験してデータを取ればよかった!」という思いが入り混じります。
図鑑などに書いてある生き物の情報は、もとをたどれば誰かが調べたデータに基づいています。
データは研究成果(≒論文)として世に送り出されて、初めて「公開」となります。
「前から気づいていたもんね~」と頭の中だけで思っていたり、ささやいているだけでは、それを公開していることにはならず、皆さんに伝わる知識にはならないのです。
そのことを、アベハゼの一件で身をもって反省した過去の私でした。
研究は大変ですから、誰もが出来るとは思わないのですが、ちょっとしたひらめきと、継続するガッツがあれば、未成年の方々でも手掛けられます。
世界的な生物学者の中には、研究デビューが中学生の時、という方もいます。
この夏、自由研究をてがける皆さんは、是非、他の誰もが気づいていないこと、気づいていても公開されていないことを探してみましょう!
結構身近にもあるものです。小さな虫の生活なんて、分かっていないことの方が多いくらいです。
伊藤