飼育日誌

2022.12.20

相模のカニ展② アリアケモドキ

皆さまこんにちは。
特別企画展「相模のカニ展」鋭意運営中でございます。

展示しているカニは、タカアシガニのようなメジャーな種もありつつ、ほとんど知られていないようなマイナーな種についても、ふんだんに取り上げています。
おそらく今現在、世界中で当館にしか展示していないカニもいるはずです。

展示ブースでは、壁面に解説を書いてより詳しく学べるようにしています。
子どもたちにも分かりやすい言葉で、なるべく新しい情報を盛り込むよう心掛けました。
とはいえ、スペースにも限界があり、カニ好きには物足りないかも…。

ということで、これから展示では伝えきれないマニアックな?話題を、カニ好きの皆さま向けに届けていけたらと思います。

今回はアリアケモドキです。
今ここで、はじめてこのカニの名前を知った方も多いのではないでしょうか。
でも、相模川のカニを語るうえで、本種は欠かせないキャラクターです。


フィールドで見つけたオス

大きさは1~2㎝くらい。泥にまみれて見つけづらいです。
平べったい甲らの真ん中に一直線の盛り上がりがあることが大きな特徴です。


メスのお腹。小さなハサミと赤くて大きなハカマが素敵

オスとメスで大きく姿が違います。メスはハサミが小さくて、歩脚とお腹が目立つ、どっしりとした体形です。私はお相撲さんみたいだなぁと思っています。


巣穴にひそむアリアケモドキ

動作はとても鈍くて、急いで逃げたりしません。
脚をビシッと折りたたんで動きを止めることもしばしばです。
こんな動きで外敵からどうやって身を守っているのか、不思議でなりません。

そのくらしぶりは、いまだによく分かっていないことばかりです。
相模川では湘南大橋より下流の「もうほとんど海」みたいなところから、馬入橋の上流あたりまで見られます。
写真のように泥地に巣穴を掘ってくらすとも、決まった巣穴を持たないとも言われます。私の見てきた範囲では、それほど巣穴にたよらずに自由気ままに歩き回っているように感じます。季節でくらしぶりを変えているのかもしれませんが、調査していると川岸に流れ着いた板や石の下から見つかることが多いです。


流れてきたゴミの下。こういう場所で見つけやすいです。

分布はけっこう広くて、北は北海道から南はベトナム沿岸あたりまで見つかっていますが、「ここ多いな」という産地がほとんどありません。
全国的に希少ということで、絶滅危惧種に指定している地方自治体が多いです。お隣の千葉県では30年にわたって見つからず「幻のカニ」とまで呼ばれたほどです。

そんな中で、アリアケモドキが比較的安定して見られるのが、我らが相模川です。クロベンケイガニやケフサイソガニと比べれば数は少ないのですが、頑張って探すとちょこちょこ見つかる、という具合です。

アリアケモドキは、私が相模川のカニに興味を持つきっかけとなった種でもあります。
本種を皮切りに、相模川のカニを調べて回ることにハマッたとも言えます。
おかげで相模川に30種類を超えるカニがいることを知ることができました。
文献もあれこれ調べたところ、アリアケモドキは今から40年以上前も相模川にいたことが分かりました。昭和から令和にかけて相模川が激変する中でいくつものカニが絶滅し、新参の種が新たにすみ始めた歴史を、アリアケモドキはひっそりと見続けてきた証人なのかも知れません。

今回、この「幻のカニ」を皆さまにお見せできることになり、とてもうれしいです。
小さくて見えづらいので、手先の器用さに定評のある西田飼育員に観察しやすい水槽を用意してもらいました(どんな水槽かは見てのお楽しみ!)。是非ご覧下さい。

…こんな調子でどんどんマニアックな世界に入っていきます。次回もお楽しみに。

伊藤


2024年3月
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