飼育日誌
ホンモロコのお立場
皆さまこんにちは。
8月28日から「実習生による水槽展示」にホンモロコが登場しました。
私の大好きな魚の一つで「興味深いネタがある魚だよー」と実習に来ていた学生さんに話したところノッてくれて、短い準備期間で上手に展示を完成させてくれました。
さて、ホンモロコの「興味深さ」とは?
・相模川では移入種。
・琵琶湖では絶滅しそう。
・美味しいので日本各地でふやされている。
あたりが分かりやすい話として、
・よく似たタモロコと雑種化しちゃう?
・そもそも同じ種なのでは?
あたりがマニアックな話として、パッと浮かびます。
今回は最初の3つについて書いてみます。
ホンモロコは日本で一番大きい湖である琵琶湖の固有種です。最近の生息状況はよろしくなく、国(環境省)のレッドデータブックでは、絶滅種に次ぐ高ランク「絶滅危惧IA類」です。これは、当館の展示でおなじみの天然記念物ミヤコタナゴと同じランクで、特別天然記念物のオオサンショウウオより高いランクです(オオサンは一つ軽いランクの「絶滅危惧II類」です)。
そんなホンモロコですが、相模川にもいるのです。琵琶湖のアユを移植した時に混ざってやってきたと考えられています。そう、高ランクの絶滅危惧種なのに、移入種としてふえているのです。ただし、今のところドカンとふえすぎることなく、水源の山中湖やその下流に点在するダム湖などでぽつぽつ見られる程度であり、「何とかしなきゃ」的な話は聞きません。
さらにさらに、この魚、食べると美味しいため、日本各地で養殖されて、食用に出荷されています。今回展示したホンモロコがまさに食用の養殖個体です。絶滅危惧種なのに、移入種で、ときに私たちの食卓にもならぶわけです。頭がこんがらがってしまいますね。
ただ、本種のこうした「お立場」を知ると、「移入種は絶対ダメ」とか「絶滅危惧種を食べるなんて」と、単純に言えるわけではないことに気づかされます。ホンモロコのような生き物は、人と生き物の付き合い方を考えていくうえで重要なポジションです。少なくとも私は、彼らから「常識を疑うのだ!」「是々非々で物事の本質を考えるのだ!」と言われているように感じます。教育に携わる端くれとしては、物事を「自分の中の正しさ・悪さ」にかたより過ぎないように判断して、その時々で「多くの方々にとって適切・妥当」かどうかを考えながら、お話ししていきたいなと思います。
伊藤