飼育日誌

お知らせ 2024.12.31

エビの渓流“滝”登り

皆さまこんにちは。
本日は大みそか。本年もありがとうございました。
特別企画展「渓流展~川がはじまるところ~」オープン後もじわじわと改善を加えながら、お正月も運営します。

今回は準備段階からのお話をします。
当館の特別企画展では、船頭から担当展示を振られる習わしがあります。
今回、私に振られたのは「沖縄の渓流」のオニヌマエビの仲間。
「まぁ、エビならそんなに難しくないか」とホッとしたのもつかの間、船頭の山田飼育員からまさかの一言が。
「エビが段差や斜面を登っているところを、どうにか見せられませんか?」
これはなかなか…この挑戦状?受けて立つしかありません。

しかし、展示開始まであまり時間がありません!しかも貝展の撤収準備もありました。
あれこれ考え込んでいるヒマはありません。
己の直感を信じ、突貫で「エビが登りたそうな」岩づくりに取り掛かりました。
私が若い頃から手掛けてきた「シリコンで岩を作る謎スキル」を発動です。
えのすいトリーター日誌 2017年12月11日

謎ってほどでもありません。作り方はシンプルです。
まず、プラスチックの鉢底ネットでだいたいの形を作ります。
その上にシリコン(お風呂の補修とかに使うプニプニとした接着剤)を塗り込み、乾く前に砂をまぶし、練り込んでいきます。
より岩っぽく見えるように塗装して、洗浄と乾燥を数回繰り返して、完成です。
(※注意:この接着剤は人の素肌にやさしくありません。扱う時は使い捨て手袋など必須です)。

この時点で展示開始まで1週間を切っていました。
もう、バックヤードであれこれ試している時間もありません。
ぶっつけ本番で展示水槽にセッティングです。


オニヌマエビの展示

水槽に水をまわしてから、慎重にエビを入れていきます。
接着剤のアクなどが残っていて、エビの具合が悪くならないかと心配しましたが、餌もよく食べ、今のところ大丈夫そうです。


流れ込みに集まるオニヌマエビとミナミオニヌマエビ

観察すること数日、なんだかエビたちが、流れ込みの真下に集まっているような…。
さらに数時間後に見に行くと、ご覧の通りです!


ほぼ垂直な“滝”を登っている!

分かりますか?岩肌を伝う“滝”の流れに逆らって、エビたちが水面より上に登ってきているのです。
餌でおびき寄せているわけでも、酸素が足りなくて苦しいわけでもありません。
水量と岩の傾斜、そしておそらく岩の質感が効いています。砂を練り込んでざらつかせたのが功を奏したのでしょう。
これはストレートで課題クリア、と言って良いのではないでしょうか。

水中の生き物が水上で活動しているという違和感。
エビでもカニでも魚でも、こういうのが面白くて好きです。
山田飼育員が求めたように、自然下ではエビたちが当たり前に行っている行動ではあるのですが、普通の生活をしていて目にすることは、まずないのではないでしょうか。
水槽内であっても、お見せできることはほとんどなかったと思います。

今回はたまたま上手くいきましたが、ダメだった時の対策も一応考えていました。
シリコン製擬岩の一番の利点なのですが、ハサミで好きな場所に穴を開け、今回のようにポンプの吐出口を設置したり、枝や尖った石を突き刺して形を微調整することができるのです。
エビが登りやすい水の向きや岩の形を模索してちょこちょこいじってみようかと思っていました。

そういえば若い頃にも、オイカワやウグイが川の小さな段差をジャンプして跳び越える水槽を手掛けたことがありました。
ちょうど私が、今の山田飼育員と同じくらいの年齢の頃です。
そして偶然にも、当時ご先導頂いた先輩2人は、相模川ふれあい科学館の元飼育員でした。
新江ノ島水族館 研究発表 2008年11月

先輩方がギラギラと意見を交わしながら、水流や段差の形を少しずつ調整して、魚が流れへと誘導され、スパッと登りやすい条件を割り出していました。一連の過程をお手伝いしながら「楽しい勉強ってこういうことか」と感じていました。
その時も今回もそうですが、生き物たちが私たちの望んだ行動を見せてくれると、少しだけその本能に迫れたような気がして、嬉しくなります。

ご来館頂いた際に、常にこのような“滝登り”行動が見られるとは限らないのですが、ご承知おき頂いた上で、変わったエビの水槽をのぞき込んでみて下さい。

伊藤


2025年2月
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