飼育日誌
異端の渓流魚たち
皆さまこんにちは。
本日より、特別企画展「渓流展~川がはじまるところ~」がスタートです。
当館ではこれまでも「流れのアクアリウム上流域」でイワナやヤマメの展示をしてきましたが、もっといろいろ紹介したいと前から思っていました。
そもそも「渓流」とは、どのような場所を指すのでしょうか?
突き詰めると、意外にも説明が難しいことに気づきます。
一般的には、川の上流域を指すことが多いです。
でも、上流域にあったとしても湖や湿地を渓流と呼ぶことは、あまりありません。
「短い区間に浅い瀬と深い淵が階段状に連続する環境」というのが、「渓流そのもの」の説明としてしっくりきます。専門的に言うと「渓流型(Aa型)」と呼ばれる河川形態です。
一方で私たちは、目で見えている川、水がある部分だけを渓流だと感じてしまいがちです。
想像を膨らませてみますと、川のまわりには地下水の流れがその何十倍も広がっているはずであり、そこに栄養分を供給する落ち葉や土があり、その恩恵を受けて育つ木々や動物たちがいます。
…ということで、今回の企画展ではあえて「渓流」が指す意味を広く受け止め、川だけでなくそのまわりを彩る水辺や森林も、ひっくるめて扱うことにしました。
企画展の船頭役3回目となる若手、山田飼育員が、頑張って渓流の解釈を広げることに挑戦してくれています。
私からはいきなり異端な話になりますが、沖縄の渓流コーナーについてです。
コンテリボウズハゼ、オオクチユゴイ、オニヌマエビの仲間を展示しています。
南国の川が大好きな私には懐かしい面々です。
若い頃は年に何回も遠征して、採集や釣りに夢中になっていました。
腰痛持ちになってしまった今はもう叶わない…よい思い出です。
これらは渓流の生き物ではありますが、異端な点が2つあります。
1つ目は、海の生き物でもあること。
彼らは産卵や、赤ちゃん時代の生育場所として、海を選びます。通し回遊を行う生き物なのです。
なので、海や河口域で出会うこともあり、そっちでの出会いしかない方からすると「渓流っぽくないなぁ」と感じるはずです。
相模川におけるモクズガニやニホンウナギのイメージがそれに近いと感じます。
2つ目は、彼らのすむ渓流が上流域にあるとは限らないこと、です。
沖縄に限らず、島や半島の小さな川に多い印象なのですが、渓流っぽい環境のまま、いきなり海に流れ出す場所があるのです。
先日ご紹介したサワガニの生息地も似たような例になります。
飼育日誌2024.11.08 カニ日和④
「海辺で振り返ればすぐ渓流」みたいな感じです。中流域や下流域の環境をすっ飛ばしているのです。
若い頃の私を魅了した理由の一つがこれで、海を楽しんだ直後に渓流を楽しめるわけです。そんな場所ではこのとおりです。
これらを踏まえて、先ほど記した渓流の解釈をもう一度。
「短い区間に浅い瀬と深い淵が階段状に連続する環境」と「そのまわり」。
そうです、上流域とか、冷たいとか、あえて書いていないのです。
南国でも、海の近くでも、渓流はある、という面白さ、奥が深いです。
他にも、オーソドックスな渓流や風変わりな渓流まで、色々な展示を取り揃えております。
是非、ご覧下さい。
伊藤