飼育日誌
ただいま貝展開催中④ アズキガイ
皆さまこんにちは。
「貝展~みんな知ってるカイ?~」そろそろ折り返し地点です。
今回は展示の中で最もマニアックで思い入れの深い貝について語ります。
これについて知っている方は、もう私の説明など要らないマニアか専門家だけでしょう。
陸にすむ小さな貝、広い意味でのカタツムリです。
世界のカタツムリ標本を飾っているケースの中です。低い位置にこじんまり。
分かりにくくてすみません。
同僚から「アズキガイって展示しないの?」、私「いや、してます…」となる始末。
これはしっかり広報しなければ!
というところでもあります。
いわゆるカタツムリではありますが、メジャーなカタツムリであるマイマイの仲間(有肺目)とは分類上縁遠く、どちらかというとタニシやカワニナに近い仲間(ニナ目)です。
目が触角の根元にあり、殻口を閉じるための蓋を備えているあたり、確かにタニシっぽいです。
「カタツムリとは何か?」を語り出すと長くなりますので、今回は仮に「卵から成体まで、生活史のほとんどを陸上で過ごす貝」ってことにします(本音を言えば私の定義はちょっと違うのですが、その話はまたいつか)。
とても小さな貝ですが、ユニークな特徴をいくつも備える貝なのです。上記の分類の話もその一つです。他にもいくつか紹介してみます。
まず形。マイマイはおろか、タニシともカワニナとも似ていません。サナギ形というらしいです。赤い色も相まって、まさに「小豆貝」です。ところで、生まれたての赤ちゃんは全然違う姿をしています。
これらが同じ種類の貝とは思えませんね。数カ月かけてじわじわと貝殻に高さが出て、大人の姿になるのです。
お肉(軟体)の色も変化します。赤ちゃんは白いのですが、どんどん黒くなっていきます。
次に分布。本来は長野県よりも西側に分布する貝で、7つの府県で絶滅危惧種になっていたりします。希少な貝…かと思いきや、ここのところ神奈川県や東京都でも相次いで見つかっています。いわゆる国内移入種です。似たような立ち位置の魚を以前ご紹介しましたね。
飼育日誌2022.09.01 ホンモロコのお立場
私が初めてアズキガイを見つけたのも移入先と思しき神奈川県です。自宅の近くにある公園で、よちよち歩きの長男坊を連れて散策していたらたまたま発見、というところです。
その時は「関東初記録かも!」などと思い、論文で報告しようとしたのですが、すでに県内で報告例がありました。私のリサーチ不足です(数例目でも貴重な事例では?と粘りましたが、かなわずでした)。
残念でしたが、それと並行して繁殖にも挑戦していました。
・外来種になるくらいだから殖やせるかも。
・在来産地では絶滅危惧種なわけで、繁殖生態の解明には意味があるはず。
・ついでに移入先で殖えちゃう理由も分かるのでは…。
などと思って、水族館の片隅でちょこちょことお世話をして飼育し続けていました。
最初は何を食べるかも分かりませんでしたので、アズキガイがいたところの落ち葉や朽木などに加えて、色々な野菜を与えていました。
数日毎にケースをのぞきます。
小さな貝なので、目に見えて餌が減っている感じはしないのですが、野菜の表面やケースの壁面に黒いツブツブがくっ付いています。
おそらくフンです。出していると言うことは、食べていると言うこと。
そう信じて数ヶ月後、ついに…
いつの間にか産卵していました。
「あっ!卵発見」となっていたら、実にドラマチックだったのですが、この時は卵に気づかず。生まれた赤ちゃんを見つけてようやく、繁殖成功に気づきました。
そこで止めずに、子世代から孫世代の繁殖に挑戦しました。
上で紹介したように、赤ちゃんはじわじわと形を変えながら成長し、鮮やかなワインレッドの成体になりました。もう少し、もう少し、そう思ってまた数ヶ月後…。
孫世代の誕生です。
当時はまだ、アズキガイの累代繁殖例はなく、日本動物園水族館協会に報告し、繁殖表彰を受けることがかないました。
というわけで、私にとって名実ともに思い入れの深い貝なのです。
今回、貝の特別企画展をするにあたって、一番最初に登板を決めた貝でもあります。小さい貝なのでいわゆる目玉にはなり得ないと分かっていましたが、本種の魅力を少しでも皆さまにお伝えしたいと思ったのです。
事前に作ってもらうチラシや掲示物にも、しっかりとヤツの姿が刻まれています。
この日誌を見て、アズキガイの展示を是非探して見て頂けたら嬉しいです(探す、というほど分かりにくい所に展示したとは思っていないのですが…おかしいですね)。
そして、ご自身がお住まいの地域に戻られたら、本種がいないか、散歩のついでにでも探して頂けたらと思います。
西日本なら在来、東日本なら移入(外来)。いずれにしても貴重な記録になります。
私も、久しぶりにアズキガイを探しに行ってみようかと思っています。
伊藤