飼育日誌

お知らせ 2024.10.03

ただいま貝展準備中① オカモノアラガイ

皆さまこんにちは。
秋の特別企画展の予告を開始しました。
題して「貝展~みんな知ってるカイ?~」
主役はまさかの貝です。
「これは攻めすぎだ!」などと思いきや、意外とそうでもありません。
貝を博物館(水族館含む)で展示することは、むしろよくあります。
多くの貝殻を展示して一大コーナーを作っている園館もありますし、インターネットで検索すれば貝に関する特別展をした園館名がちらほらと見つかります。
貝を専門に扱う学芸員さんも多いです(私もその端くれであります)。

つまり、博物館で展示されつくしている感すらある。それが貝という存在です。
そんな中、今からでもユニークな貝の展示は可能なのだろうか?
それが今回の裏テーマの一つでもあります。

ここ数ヶ月、会場のデザインや形について、プロのデザイナーさんや大工さんと打ち合わせを重ねてきました。それが今、みるみると形になっています。
会場が出来たら、今度は展示作りです。私たち飼育員が分担して作っていきます。
あと1週間は寝不足の日々が続きますが…頑張ります。


更新中の会場

特別展に先立ちまして、一つ新しく貝の展示を始めました。
「田んぼの生き物水槽」に、2種類の「ものあらがい」が登場です。


人ゾーン「田んぼの生き物水槽」

「ものあらがい」の名を持つ貝は、日本から10種類ほどが知られています。
田んぼをはじめとする浅い水辺で見られる小さな巻貝で、レモンのようなやや縦長のうすい貝殻が特徴です。今回はその中から、2種類をチョイスしました。


標準和名「モノアラガイ」。

こちらは水の中で主に活動する「ものあらがい」です。
「モノアラガイ目」に属す、いわば「真のものあらがい」であり、三角形の触角を持ち、目はその根元にあります。ある種の哺乳類のような顔つきです。
ぬれたところに上陸することもありますが、長時間にわたって陸で活動することはできません。
一方で、水面を逆さまにはう「フローティング」をよく行うことが知られます。
展示でも、運が良ければ見られるかもしれません。
また意外にも、環境省レッドデータブックで準絶滅危惧種になっています。
確かに、以前ほど自然下でみかけなくなった気がします(以前に相模川中流域の河川敷にある水たまりで見つけたことがあります)。


標準和名「オカモノアラガイ」

こちらは水の外で活動する「ものあらがい」で、水に落ちるとおぼれてしまいます。
分類上はカタツムリの仲間(マイマイ目)で「モノアラガイ目に貝殻の形が似ているカタツムリ」だと言えます。
顔つきはいわゆる「カタツムリ顔」。細長く伸びた触角の先っちょに目があります。
飼育下では色々な野菜を食べます。時に畑でふえ過ぎて困りものになることもあります。
田んぼのあぜなど、湿り気のある草地を好む印象ですが、桑畑で大発生した例があり、かなり立体活動もするようです。展示にも登れる枝を設置してみましたら、さっそく登っていますね。
ちなみに、先日の日誌で紹介した「ゼラチンに包まれた卵」は本種のものです。
展示の中も産んでいますので探してみて下さい。
生まれてくるのが楽しみです。
飼育日誌2024.09.19 なんの卵でしょう?

私も生まれてもうすぐ半世紀、貝を研究し始めて25年です。
これまでに色々な貝をあつかってきました。
そんな私が、人生で初めてたわむれた貝は何だったかなと、思いをめぐらせてみました。
小学校に入ったばかりの頃でしょうか。東北の祖父母の家の前に田んぼがあり、あぜの草にたくさんの黄色い貝がくっついていました。
「見たことない!珍しい!」などと思いながら、ムシカゴ一杯につかまえた記憶がよみがえってきました。
今思えば、あれはオカモノアラガイだったのです。
人生最初の貝がオカモノアラガイ…自分でもびっくりです。
正直に言えば、つい最近までオカモノアラガイのことは頭から消えていました。
このことを思い出してから、今回の特別展のスタートは本種にしようと決めました。

この後も定期的に貝の魅力について紹介してまいりたいと思います。
一緒に貝を「たしなみ」ましょう!

伊藤


2024年12月
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