調査・研究

2023.07.10

イシガイ類の塩水適応に関する調査・研究成果が論文掲載

 相模川ふれあい科学館では、北里大学をはじめとする生き物の研究者と協力して、イシガイ目の淡水二枚貝(イシガイ類)の生態解明をすすめています。
 イシガイ類の多くは純淡水域にすんでいますが、沿岸にある生息域(下流域や海跡湖)では、海水がさかのぼる自然現象「塩水くさび」や、沿岸域の工事などによる海水の逆流によって、塩水にさらされる可能性があります。私たちは「塩水にさらされたときのイシガイ類がどうなるのか」を明らかにしたいと考えて研究を続けてきました。過去に、成貝ではコイなどの淡水魚が問題なく生きられる薄い塩水(1/4海水。塩分8psu)中でも長く生きられないこと、一方で魚の寄生虫である赤ちゃん(幼生)は、魚に寄生している間であれば、濃い塩水(塩分22~33psu)にさらされても成長し続けられることを明らかにしました。このことは、基本的に塩水中では生きられないイシガイ類が、赤ちゃん時代に限り魚の力を借りて塩水中を移動し、分布を拡大する可能性を示しますが、それを裏付けるデータはまだ十分ではありませんでした。
 このたび、イシガイ類の塩水適応について追加で調査・実験を行い、上で記したような可能性をフォローするデータを追加することができました。その成果をまとめたものが、日本貝類学会が刊行する学術雑誌「Venus」に掲載されました。

掲載誌 Venus No.81 2023年6月発行
題 名 飼育下におけるイシガイ目成貝3種と幼生2種の塩分耐性および汽水湖における幼生2タイプの魚体寄生事例
著 者 伊藤 寿茂(相模川ふれあい科学館)、柿野 亘(北里大学獣医学部)、市川 圭祐(新江ノ島水族館)、成田 勝(東北緑化環境保全株式会社)、竹内 基(岩手県立久慈高等学校)


ヌマガレイの腹びれに寄生する貝の赤ちゃん(グロキディウム幼生)


リンク先
https://www.jstage.jst.go.jp/article/venus/81/1-4/81_75/_pdf/-char/ja

 まず、塩水に弱いとされる成貝ですが、2日間以内であれば塩水中でも耐えられ、直後に純淡水にさらせば、多くが生き延びることが分かりました。自然に置き換えると、下流域に差し込む「塩水くさび」は多くの場合、海の干満によって範囲が変化しますので、そうした「淡水化と塩水化をひんぱんに繰り返す」「基本は淡水、たまに塩水がさしこむ」といった水域であれば、イシガイ類も生息が可能なのではないかと考えられました。
 また、そうした水域には、塩水域と淡水域を行き来する回遊魚がすんでいます。ハゼやカレイの仲間がそうであり、釣り対象として津久井湖に放流されているワカサギも、本来は回遊魚です。青森県にある薄い塩水の湖で漁師さんに魚をとって頂き、その体をくまなく調べたところ、貝の赤ちゃんが寄生していました。この湖のまわり、塩分が特に低い部分や、湖に注ぎ込む純淡水の川などには、貝がすんでいることが分かっていましたが、そこから離れた塩水の水域で「魚に寄生した貝の赤ちゃん」が確認できたことになります。
これら複数のデータを「状況証拠」のようにとらえますと、イシガイ類が幼生時代の「寄生生態」をうまく使って、塩水の壁を越えた移動に成功している可能性がさらに高まりました。本研究により、イシガイ類の分布の維持や拡大について興味深い見解を一つ、加えることが出来たと考えています。これからも大学や他の博物館と協力して、イシガイ類を研究していきたいと考えています。

伊藤


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