飼育日誌
貝の赤ちゃん③
皆さまこんにちは。
不定期連載3回目、やっと魚のお話にはいります。
当館では現在、「田んぼの生き物水槽」と「アユ水槽」で展示しています。
日本人になじみ深すぎて新鮮さはないでしょうが、ヘビのような体に小さな瞳、たくさんのヒゲと、変わった見た目を持ち合わせているステキな魚です。
ドジョウと貝の関係は、学生時代の私の研究テーマでしたので、思い入れのある魚です。
その時代、貝の赤ちゃんの宿主(貝の赤ちゃん①・貝の赤ちゃん②)と言えば、カワシンジュガイ類ならサケの仲間、それ以外のイシガイ類ならハゼの仲間がメインだ、と示されていましたが、分かっていないことも多くありました。
私があつかったマツカサガイの赤ちゃんでも、ハゼとの相性が良く(=稚貝への変態成功率が高い)、ドジョウとの相性はいまいち、という実験結果でした。指導教官にそのことを相談すると「現場水路での魚の多さはどうだったんや?」とご指摘頂きました。実は、水路内の魚の数は、ハゼよりドジョウの方が何十倍も多かったのです。現場での魚の生息数と、赤ちゃんの寄生数、そして飼育下で調べた赤ちゃんとの相性から計算すると、水路全体ではドジョウへの寄生を経て稚貝になったものがほとんどである!と推定されたのです。とても興味深い研究となり、そのことがキッカケで、私は貝の赤ちゃん研究に熱中する人生を送ることにとなったのでした。
さて、ドジョウは日本の魚としては珍しく、空気呼吸ができるうえに、水なしの土中でも生き延びる能力を持っています。ただ、陸を移動する能力については、図鑑や論文を見てもあまり記されていないのです。私が調べた中で一番すごい!と思ったものは「養殖池のフチにカエシをつけて、岸辺から垂れ下がる草を刈っておくこと。そうしないと草を登って外に逃げてしまう。」という古い養殖本の一文でした。これが本当なら、田んぼのあぜを乗り越えることなど余裕です。
ここからは想像ですが、貝の赤ちゃんがドジョウに乗って、水中どころか陸をも移動していくのでは!?などと考えています。なんとロマンのあることでしょう。今後、そのあたり調べてみようかな?とも思いますが、一筋縄ではいかなそうです。ドジョウはイメージに反して皮膚が弱く、肌荒れから皮膚病になりやすいです。陸ばかりの水槽で飼うことはできませんし、少しの陸がある水槽で飼ったとしても、カエルやイモリのように自ら陸に上がってくることはありません。現場での本格的な調査や、ふと遭遇した「陸上移動の目撃例」の記録を残す努力が必要になると感じています。
伊藤