飼育日誌

2023.11.14

相模の海の生き物展④ クシテガニ

皆さまこんにちは。
相模の海の生き物展も折り返し地点となりました(12月10日までです)。
さて、今回展示した生き物の中で個人的ベストはどれか、と言われたら…悩みに悩んだすえにこの種を選ぶでしょう。

クシテガニ

爪の色のグラデーションが美し過ぎます。

別名オオユビアカベンケイガニ。当館にたびたび足を運んで下さっていた方は、少し前まで「実習生による水槽展示」に展示していたことを覚えているかも知れません。

このてのカニが好きな私は、沖縄に行ったらマングローブでカニ三昧、関東にいても南方種を探して見つけてハッスル、という感じだったのですが、本種は長年にわたって憧れの存在でした。

こんな見た目で南方種かと思いきや、そうでもないのです。
本種の分布には台湾が含まれるものの、日本の琉球列島では確かな記録がなく、九州~本州中部の限られた水域でしか見つかっていません。当然、私も沖縄では見つけたことがなく、このあたりがもう一つの推しガニ、フタバカクガニとの違いです。フタバは沖縄に行けば、マングローブの主役と言えるほどにわんさかいます。

クシテガニを相模川で見つけたくて、訪れるたびに目を光らせているのですが、まだ叶えられていません。本種がどういう環境を好むのかは、分かっているつもりです。


展示個体を採集した場所

こちらは展示のクシテガニを採集した関東の某干潟です。広大で、水辺から陸に向かってなだらかな「坂」になっています。満潮時に水没している時間が長い低いところは泥や砂だけであり、チゴガニやヤマトオサガニがすんでいます。水没しない高いところにはヨシやオギといったイネの仲間が生い茂り、お馴染みのクロベンケイガニやアカテガニがすんでいます。クシテガニがいるのはちょうどその中間。点線で囲ったあたりです。1日のうちで、そこそこの時間は水没していますが、水没に強いヨシがまばらに頑張って?生えていて、打ち寄せられた枝や丸太がひっかかっています。必死にやぶ漕ぎしなくても、さくさくとヨシをかき分けて歩けます。足元を見ると、トコトコとまぁまぁの速さで逃げていくアシハラガニの中に、明らかに段違いの素早さで視界から消えていくカニがいて…頑張ってつかんでみると、やった!クシテガニ!という具合です。


相模川の河口

そこまで分かっているのなら、と思われるかもしれませんが、相模川の河口は、上の某干潟よりも潮間帯が狭くて、水辺から陸に向かう「坂」も急です。クシテガニがいる可能性がある点線のような環境は少なく、しかも周りに護岸や岩がゴロゴロしていて、いるけど隠れてしまって見つかっていない可能性もあると思っています。


現在のクシテガニの展示

今回、展示場所を変えながら数ヶ月間にわたって展示している中で気づいたこともあります。
展示内は陸上と水中を選べるようにしてありますが、クシテガニは意外にも水中にいることが多いのです。


水中のクシテガニ。かわいいです。

陸上にいたいけど仕方なく水中にいる、というケースも考えられますが、その場合状態を崩すはずです。が、今のところそういう感じは受けません。
ここからは妄想ですが、アカテガニやクロベンケイガニなどの「陸を好む半水棲種」の中では、水中への適応力が高いのではないかと感じます。思えば生息地でも、満潮時に避難する陸地がないようなところにもいたりします。そういう場所には、クロベンケイガニやアカテガニはほとんどいません。これらが好まない場所をクシテガニがあえて選んでいるとしたら、非常に興味深いです。

ということで、水中にたたずむ様子も、実はクシテガニの本来の姿かも、などと想像を膨らませながら展示をご覧いただけますと幸いです。

伊藤


2023年11月
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  • 休館日
  • 祝日・振替休日
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